牛のゲップや水田面から放出されるメタンガスが温暖化の要因とされるが、田んぼや池からメタンが放出されるのは自然現象で、今に始まったことではない。私は少年のころから「燃える空気」の存在は知っていた。
昭和30年代の田舎の子供の遊びは、野や山、川や池がその場所だった。年上の子がいろんな遊びを教えてくれた。その一つが、池の底泥をつついて出る泡(あぶく)を集めて火をつけると「燃える」という、たったそれだけの現象を試して喜ぶという単純な遊びだった。
水の底の泥から出る「泡を集める」、その方法が子供には斬新だった。まず、空き瓶を手に入れる必要があったが、そのころの田舎で子供が空き瓶を手に入れること自体が、そうそう簡単ではなかった。酒や醤油の空いた一升瓶は大きすぎて子供の「手に余る」。せいぜい四合瓶か、それより小さなガラス瓶は、そこいらに転がってはいなかったが、年上の子供がどこからか見つけてきて、自慢げにメタンを集める方法を伝授してくれたものだ。
まず空き瓶に口までいっぱいに水を入れて親指で口をふさぐ。逆さにして指でふさいだ瓶の口を池の水面下に沈める。細い棒きれで泥を静かにつつくとポロポロっと泡が出てくるのを、指を離した瓶の口に受けると、中の水と泡の正体であるメタンが入れ替わって、やがて瓶の中にCO2が混ざったメタンが溜まる。
そのまま再び瓶の口を指で押さえて池から出し、上向きにして、そこにマッチの火を近づける。指を離すと、瓶の口がポウッと優しく燃えるのだ。ほとんど一瞬の現象だが、子供心には不思議で妙に蠱惑的だった。この操作は一人ではできない。当時、2~3人集まってやる遊びの中に、科学授業のような体験がたくさんあったと思う。
「空気が燃える」不思議さは、やがて台所の煮炊きが薪からプロパンガスに代わった昭和40年代まで。子供もガスの存在を知るようになったが、池の底から出る「燃える空気」の正体がメタンであることなど、当時は知る由もなかった。
再生可能エネルギーとして家畜糞や生ゴミを嫌気発酵させ、発生するメタンガスを燃やして発電する技術がある。エネルギー転換効率はさほどよくなく、廃棄有機物の収集など作業行程に手間もかかることから、一時ほど注目されなくなったが、いずれまた普及の対象になるように思う。
大正時代、すでに個人宅で人糞尿を使ってメタンを台所に引いて使っていた事例を聞いたことがある。30年ほど前にインドを旅した際、宿泊した修道院の農場に牛糞を使ったメタン発酵槽があり、宿舎で使っていた。しくみは簡単で、手作りを指南する団体が埼玉県にある。