環境問題と農業(1) 農業は環境に何をしたのか(その四)

 農林業の最も重い罪は、生物種の大量絶滅を促していることだ。すでに1980年代から警告が発せられ、生態学の研究者などが対策の必要性を発信していたが、日本の農業界は鈍感で問題認識はきわめて薄かった。

 生物種の絶滅種数について、世界132カ国の政府が参加する「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム」が2019年5月、衝撃的な予測数値を発表した。動植物約800万種のうち、「今後数十年間で100万種が絶滅のおそれがある」というものだ。同様に、「昆虫種の40%が絶滅のおそれ」だというから恐ろしい。

※「今後数十年間」≒ 30年間がめやす

※ 昆虫種数:確認されているものは約100万種。推定種数は260~780万種(研究者による)。全動物種の75%を昆虫種が占める。

 もう一つ生物種絶滅についての解説を紹介する。山形大学環境保全センターのウエブページ「野生生物種の絶滅」の記述から一部をそのまま引用する。

 「恐竜時代以降、1年間に絶滅した種の数を調べてみると、恐竜時代は1年間に0.001種、1万年前には0.01種、1000年前には0.1種、100年前からは1年間に1種の割合で生物が絶滅しています。絶滅のスピードはますます加速され、現在では1日に約100種となっています。1年間になんと約4万種がこの地球上から姿を消しているのです。…… 現在もなおそのスピードは加速を続け、このままでは25~30年後には地球上の全生物の4分の1が失われてしまう」

 生物種絶滅を促すその主要因は農林業だと、前世紀から指摘されていた。そのことを私が知ったのは今から20数年前、前職の農学校で「有機農法論」を開講したころだ。「有機農業を普及させねば」と思った大きな理由の一つだった。

 農林業のどのような行為が種の絶滅につながったのか。

 森林樹木を伐採して(日本は木材を大量に輸入する)その跡を農地にする、開発にともなって縦横に道路をつくる、大規模なモノカルチャー(単一作物の栽培)を行う、大型機械で頻繁に耕うんする、除草剤散布で草を生やさない、化成肥料を多投入する、化学合成殺虫剤を大量に散布する、などの行為だ。

 こうした農林業の悪影響から脱する方法は、誰でも想像できるだろう。すでに世界中が行動を起こしている。森林率が大きい日本は木材自給に舵を切ること、すみやかに有機農業に転換し、次に環境再生型有機農業に移行することである。

・種の絶滅が私たちのくらしに及ぼす影響については(その五)で。

・種の絶滅を止める農法転換については(その六)から。