有機農業とその技術(6) 有機農法の多様性(その一)

 有機農業という言葉は、化学合成農薬や化成肥料を使わないで行う “農家経営のスタイル” を表しており、有機農業でありたいとする農家の考え方や暮らし方をも含んだ用語である。

 対して、有機農業の技術技能、あるいは生産手法の側面だけをいう場合は「有機農法」という言葉を使う。この世界は実に多様で、自然農法とか、炭素循環農法、微生物農法、自然農等々、農家が自称する呼び名がたくさんある。農家個々は自分 (または同じ農法の同志たち) の農法が他と異なることを示すために独自の農法名を名乗るが、私のような第三者から見るといずれも「有機農法」に含みこまれる。それぞれの農法は少しずつ異なる特徴を持つが、有機農業の理念においてほぼ同じ目標を持っており、そこに到達しようとする手法に若干の違いがあるに過ぎないのだ。

それぞれの呼称は実践者自らの名乗りである。5区分すべて「有機農法」の範疇にある、という理解でもよい。

 この農法5類型は、これまで30年間にあちこち多数の有機農家を訪ね、現場を見て話を聞いて整理したものである。この一覧は有機農法を理解するための便宜的な区分であり、この5区分に収まり切れない事例もたくさんある。また、農家によってはこういう区分や農法理解を認めたがらない場合もあるに違いないが、自分と他との違いとともに共通性も知って相互に学び合ってほしい。切磋琢磨の材料になると思うのだ。さらには、農家をとりまく関係者に有機農法の理解を促したいのである。

 有機農業の発展のために、特に行政や農協など指導部署の人々に多彩な農法があることを知ってほしい。こうした多様性には、未来に向かって技術的な可能性やヒントをたくさん内包している。全国の農業改良普及指導員の研修会でこの一覧を度々紹介した際、普及員たちから「こういう多様性や特徴を知らなかった。理解の助けになる」と歓迎されたのだ。

 次回以降、各農法の特徴を順次紹介してみよう。農法ごとの特異的な手法とともに、区分を横断する手法の意味、意義、さらには未来に向けた課題をじっくりと分析してみたい。

 有機農法における多様で豊富な技術と手法の組み合わせ方を、農家の考え方とを関連させながら整理してみよう。①なぜそのような手法を採用するのか、②その手法にどのような意義や可能性があるのか、③地球環境の変動の先を見すえた場合に、5類型を超えてより適切な農法を見出せるか、その要点は、などを検討してみたいと思う。