有機農業とその技術(1) はじめに 

 これまでの農業のあり方は、地球環境を悪化の方向に促す「負の役割」を担ってしまった。他産業と連なって地球温暖化・気候危機に加担し、生き物の大量絶滅の主犯となり、農地の劣化と水圏汚染を進めて未来の食料生産を危機に陥れた。早急に農法を改めないと、すぐ目の前の未来人の食を保障できなくなる。

 これまで重ねてきた「負の役割」を根本から反省し、できるだけ速やかに問題を正して危機から脱するために、「低投入持続的農業」すなわち有機農業に転換しなければならない。

 

 有機農業とはどのような農業なのか

 有機農業を正しく理解し、その技術の適切な使い方を知る必要がある。うわべだけの知識で安易に進めてしまうと、「問題を正す」という目的を十分に果たせないかもしれない。現実の有機農業にもさまざまな手法があり、環境問題への対処や人の健康への貢献度はそれぞれ多様でピンキリである。有機農業とその技術について、このあと一つずつ分析し、解明してみようと思う。

 次の一覧表は、日本の有機農業技術の使い方(=有機農法、畑作)の特徴を整理したものである。水田稲作のことは別の機会に述べることにする。有機畑作の農法を5類型にして示したが、全国の有機農家(および法人)がすべてこの一覧に当てはまる訳ではない。農法の詳細は十人十色であり、この5類型を横断する農家、5類型からはみ出す農家もたくさん存在する。理解を助けるための仮の分類である。

 

無施肥・不耕起の自然農、金属やプラスチック資材を持ち込まず、草刈りして敷草する

 

 日本の有機農業は、その芽生えは戦前からあったが、大きな前進を示したのは1971年の日本有機農業研究会発足のころからである。農薬を使わず身近な有機物で土づくりし、水田稲作を含む多品目作物を栽培する有機農家が主体であった。鶏や山羊などを飼養する有畜複合農業も特徴の一つだった。農法類型の右から2番目がそれである。

 20世紀末から他の農法も登場し多様性を増した。土づくりか施肥か、耕うんについての考え方、草とのつき合い方もさまざまに展開した。品目を絞って規模を大きくし、スーパーマーケットなどに量販する法人経営も増えた。資源活用のあり方、環境保全を考慮する姿勢も多様になった。20~30年後を見すえて、より適切な農法はどこをめざせばいいのか、技術に焦点をあてて順次検証してみよう。