環境問題と農業(2) 有機農業に転換する意義(その三)

 有機農業に換えれば生物多様性は守られるのか。

 二つ目は、地上部の生きものについて考えてみよう。

 私は過去30年間、自身の有機栽培の畑のほか、有機農家の田畑を数多く見てきた。慣行農家の田畑も同時に観察してきたので、地上部の生きものの違いはよく分かる。

 有機水田の特徴としてクモがとても多いこと、田んぼの上を飛ぶツバメの多いことをまず指摘しよう。初夏の早朝に有機の田んぼを透かし見ると、稲の葉先に朝露に濡れた無数のクモの巣が見える。慣行栽培の稲田では殺虫剤で虫が減ってクモのエサが不足する。そもそもクモ自体が殺虫剤にとても弱い。有機水田にはさまざまな昆虫が繁殖して、それを捕食しようとトンボ(ヤゴ)、カエル、ツバメが増える。水中にはミズスマシ、ゲンゴロウミズカマキリ、時にはタガメまで水辺の昆虫が湧き出るように増える。虫やカエルを食べようとサギ鳥やヘビも有機水田に集まり、さながら生きものの楽園のようになる。有機水田では生態系が豊かになると農研機構が研究成果を紹介している。

 畑でもクモとカエルの存在が際立つ。多くの有機農家の畑は、慣行農家の畑と比べると雑草が多いことがある。雑草は繁茂し過ぎると作物生育を損ない収量を減らす厄介な存在だが、適度に生やすことで畑地の生物多様性に貢献する。害虫も混じるが、害のない「ただの虫」が多くなり、それらを捕食する「天敵」も増える。同時にこれらを食べるアマガエル、トカゲも増える。

 

 有機の畑で作業しているとクモの巣に上半身を搦めとられることがある。足元では徘徊性のクモがたくさんチョロチョロとはい回る。カマキリ、クサカゲロウテントウムシ、ゴミムシの類をそこいらじゅうに見ることができる。慣行栽培との比較では、まちがいなく生物多様性に優れる栽培法だ。

 有機作物栽培でも、生物性に関して大きく農法を二分できる。上記のような生物多様性を活用する有機栽培は「開放型」の露地栽培の場合だ。もう一つ「閉鎖型」の施設栽培は、野生生物を一切侵入させない「環境遮断」によって害虫を回避するので、生物多様性とは無縁だ。自然生態系を活用するすべはなく、培養した天敵製剤(生物農薬)を計画的に使う工業技術的有機農法である。

 露地栽培の有機の畑も完ぺきに生物多様性を守れる保証はない。多くはトラクターで畑を耕して環境をリセットし、プラスチック資材も使う。限定的とはいえ、生きものにとって過酷な技術を有機農業でも使っている。次のステップとして「環境再生型有機農業」を目ざさなければならない。