この国のかたち(16) 大企業優遇2.3兆円

私は、農家の立場から、わが国農業の止まるところを知らない衰退と国民の食料自給力の減退に警鐘を鳴らし続けている。その対策として、国の農業予算の4倍増、5倍増が必要だと考える者だ。もっとも重視すべきは新たな農家育成のことで、そのために毎年1兆円の…

徒然に(13) 新たな出会い

耳の故障が進み、人との会話がますます困難になってきたので、別のコミュニケーション方法が必要になった。内耳のセンサー崩壊が進めば、補聴器という補助手段には限界があると分かった。音声をスマホの画面に文字で表示するアプリも試したが、スマホ画面ば…

この国のかたち(15) 国民の食料をどうするのだ(その二)

食料・農業・農村基本法改定案の審議について、国会審議が続いている。朝日と赤旗で、その取り上げ方を比べてみようと、4月1、2、3、4、5と5日間の記事を確認してみた。朝日はこの間、1行も記事にしていない。対して赤旗は1日、3日、4日、5日とほぼ連日取り…

有機農家を育てる(10) 女性を主役に

昨年春、新たな新農家育成組織を旗揚げした。笠間・城里地域有機農業推進協議会(笠城有推協)だ。笠間市と城里町で、5年以上の営農経験があって指導力を有する8有機農家で構成している。茨城県認可の研修機関として、研修生は国の制度による助成金を利用で…

徒然に(12) 春の野菜考

また春の端境期がやってきた。4月から5月半ばくらいまで、穫れる野菜の種類が激減する。ところが、スーパーマーケットには種類豊富な野菜が所狭しと並んでいる。これは北から南からさまざまな野菜が届き、温室育ちのナスやキュウリ、トマトなども流通してい…

徒然に(11) 聞く、教わる

子どものころ、親に教わったことは多かったが、覚えていることは限られる。父親はやさしい人だったが時に厳しく訓戒を垂れることもあった。こちらが不始末したとか、不誠実だったときだから親として当然の説諭だったと、子どもにも納得できた。その訓戒の中…

この国のかたち(15) 国民の食料をどうするのだ

今日の記述は少々長くなる。私の危機感の表れだ。 食料・農業・農村基本法の改定案が3月26日、衆議院で審議入りした。この改定案は、わが国の未来を危うくしかねない危険な内容である。この法案どおりなら、国産食料の確保を完全に放棄するに等しい。座視し…

期待される農へ(1) 農業協同組合(その三、農家育成活動)

農業協同組合の現状に問題点は多々あるが、その一つが人づくり行動の弱さである。農家が激減に次ぐ激減の最中にあって、農家数の維持にさえ積極的に動いているようには見えない。生産者の減少は農産物取扱量を減らすばかりでなく、購買事業、信用事業など、…

期待される農へ(1) 農業協同組合(その二)

協同組合の存在意義が世間に伝わらなくなってきた、と前話で書いたが、それは農協職員自体の理解についても言えるかもしれない。かつての農協職員は、その多くが農家生まれの人々だった。その時代は、職員が家に戻れば農家(組合員)の家族として農協の恩恵…

期待される農へ(1) 農業協同組合(その一)

農家生まれの小せがれは、農業協同組合(農協)なくしては人並みの教育を受けられなかった。農協様様だった。農産物の販売はすべて農協頼み、売り上げは農協の口座に預け、生産用の資材だけでなく生活用品まで共同購入ができて、ほぼすべて口座引き落としで…

徒然に(10) 3月に思う

この冬は明らかに暖冬だったが、3月に入って激しい気温変化に戸惑っている。故郷は、今頃になって降雪が続いていて積雪がまだ1mもあるという。 3月はさまざまな歴史的事象、事件、事故があった月。記憶を振り返り、さらに学び直しのためにいくつか記録を掘…

農とくらしの技(8) 自然エネルギー利用の「踏み込み温床」

もうじき春分というこの季節、温暖地の農家は野菜の育苗を始める。近ごろは電熱温床が主流だが、有機農家などで伝統技術の「踏み込み温床」を作って使う例がある。農家だけでなく、家庭菜園者のなかにも自然エネルギー利用のこの技術に注目する人がいる。そ…

この国のかたち(14) 1954年

私はつい先月、70歳になった。1954年の早や生まれである。同学年の多くは1953年生まれで、有名人では北の湖、落合博満、竹下景子、松平健などがいる。ジャーナリストの金平茂紀もそうで、その姿勢に共感できる人である。1954年生まれでは松任谷由実。私が初…

徒然に(9) 「核」雑感

▶ 70年前の今日3月1日、マーシャル諸島のビキニ環礁で米国が行った水爆実験によって、静岡県のマグロ漁船第五福竜丸が被爆した。死の灰を浴びた漁船員の久保山愛吉さんが3人の愛娘を残して40歳の生涯を閉じたことは、3度目の核被爆者と呼ばれた。私が生まれ…

この国のかたち(13) 新農業基本法と戦時食糧法

政府が今国会で改定をめざす新農業基本法「食料・農業・農村基本法」には、食料自給率向上が明記されず、国策としては放棄される内容になっている。国民の食料確保を、政府の義務ではなく「農業者その他の関係者が取り組むべき課題」として農業者の責任に落…

農と暮らしの技(7) 橇 (そり) で運ぶ(その二)

春の雪消え直後は、農家はとても忙しい。待ってましたとばかりに田畑の作付け作業が一斉に始まるのだ。だから、少しでも早く雪を消す工夫が昔からあった。 田んぼに堆肥を落とし込む穴を掘るついでに、下の田土をすくって周囲に撒くことがあった。黒い色が太…

農と暮らしの技(7) 橇 (そり) で運ぶ(その一)

農は物を運ぶ仕事がとても多い。堆肥や肥料、さまざまな道具、そして収穫物。どれも重い物ばかりだ。今は軽トラックをはじめ、さまざまな運搬車があるが、昔はどうしていたのか。時には家畜に背負わせたり荷車を引かせたりしたが、人が背負い、後にはリヤカ…

農と暮らしの技(6) 工芸作物

25年ぶりに和室の畳表を取り替えた。新しい畳は青々としていい香りがする。若い職人さんが新しい畳表の生産者を教えてくれた。にこやかな壮年農家夫婦の写真と生産者情報が記されたカードを渡されて、今はこんなにていねいな対応をしてくれるのだと嬉しくも…

自然共生の農と食を未来人の手に(4) NPO農業のすすめ

有機農家を育てる研修農場をNPO法人として運営した経験は貴重だった。12年間で20余組の新農家を送り出すことができたのは、多くの人の参加と支援があったからだ。個人活動ではとても無理だった。新農家育成もさることながら、その過程で数千名に及ぶ人々がこ…

徒然に(8) 新聞を読む

新聞は紙であり印刷された活字であるが、単に日々の最新情報を提供してくれるだけの「物」ではない。国内のみならず世界各地の人々のくらしや生き様を知り、そうした人々の声が聴ける「開かれた窓」である。いい話もあればつらい記事もある。毎朝、人々の生…

自然共生の農と食を未来人の手に(3) 有機農家30万戸育成計画(その二、民間の農学校に有機指導者養成所を)

道府県農業大学校と教育目標を共有する民間の農学校が全国に5校ある。東京にあるのはAFJ日本農業経営大学校であるが、実習教育を行っていない。もう一つ岡山県にあるのは中国四国酪農大学校である。 他の3校は長野県と茨城県にある。それぞれ広大な実習農場…

自然共生の農と食を未来人の手に(3) 有機農家30万戸育成計画(その一、全国の農学校に有機コースを)

新農家100万戸育成 (120万戸育成に取り組んで定着100万戸)計画 のうち、30万戸は有機農家を想定する。120万戸育成活動の4分の1 (25%) にあたる。指導農家1万組合 (4~5万戸) を有機農家育成にあてたいところだが、現状では有機農家はそんなに存在しない。経…

自然共生の農と食を未来人の手に(2) 新・農家100万戸育成計画(その八、技術コーディネーター)

これが新農家100万戸育成計画の概要。予算1兆円はとても大きな額だが、未来人のためには必要な投資だ。 4万の指導農家組合を組織することと同時進行で進めなければならないのが、全国津々浦々に支援組織を配置することだ。都道府県単位では網目が荒すぎてあ…

自然共生の農と食を未来人の手に(2) 新・農家100万戸育成計画(その七、新規就農者の現状は)

実践力ある指導者の育成を次話で、と前話で締めくくったが、さらに次話に送る。その前に新規就農者数の現状を確認しておこう。 農水省の数字に依れば、2022年の「新規自営農業就農者」は31,400人である。しかし20年後も確実に営農を続けてくれると期待できる…

自然共生の農と食を未来人の手に(2) 新・農家100万戸育成計画(その六、指導農家を支える地域連携)

指導農家1戸だけで新人農家を育てることは容易ではない。それを物心両面で支えられるものがあるとすれば、その第一は周囲の同志農家の存在だ。少なくても3戸、可能なら5戸くらいの研修生受入れ農家組合が望ましい。前話で4万戸の指導農家が必要だと書いた。…

自然共生の農と食を未来人の手に(2) 新・農家100万戸育成計画(その五、1兆円以上の農家育成予算を)

国民を飢えさせないこと、栄養豊かで満足できる食事を保障することは国政のもっとも大事な責任であるはずだ。20~30年後に食料不足に陥るかもしれないと、農水省は花農家や畜産農家の畑に穀物やイモ類などを強制的に植え付けさせる法律を考え始めている。 次…

自然共生の農と食を未来人の手に(2) 新・農家100万戸育成計画(その四、有徳人たちの力)

技術と経営を教えて就農に導く指導者のあり方にも、二つの例がある。一つは行政と連携し、国や都道府県の支援制度を使って手厚く就農者を育てる「認定研修機関」のあり方。もう一つは、制度に頼ることなく個人的に就農者を育てる例である。研修機関の認定を…

自然共生の農と食を未来人の手に(2) 新・農家100万戸育成計画(その三、研修5道)

農家が減るのは、高齢農家に家業後継者がなくて離農が増えるからだ。農家の後継ぎが他産業に就職すれば、農家はいずれ田畑を耕作できなくなる。周辺の若手農家や農業法人、集落営農組合などに農地を預けて耕作してもらうことになるのだが、預かる農家の経営…

自然共生の農と食を未来人の手に(2) 新・農家100万戸育成計画(その二、20年後)

わが国の農家数減少の経過をあらためて、確認してみよう。 農林業センサス (農林水産省) によると、1950年に1,350万人だったものが、1975年490万人、2000年240万人、そして2022年は123万人に減ってしまった。1950年比で91%減である。ちなみに食料自給率は19…

自然共生の農と食を未来人の手に(2) 新・農家100万戸育成計画(その一、三面六臂)

農は3つの顔を持っている。食料生産だけが農の顔ではない。 農産物生産が農業の表面だとしたら、その側面には農民とその家族 (あるいは従業員) という主体者がいて、その主体者が担う農山村という地域 (社会と環境) がある。 唐突だが、一つ喩えを試みる。仏…