有機農家を育てる(10) 女性を主役に

 昨年春、新たな新農家育成組織を旗揚げした。笠間・城里地域有機農業推進協議会(笠城有推協)だ。笠間市城里町で、5年以上の営農経験があって指導力を有する8有機農家で構成している。茨城県認可の研修機関として、研修生は国の制度による助成金を利用できる。

 笠城有推協には、いま2名の研修生がいる。30代の男女各1名で、いずれも既婚者である。それぞれ指導農家のもとで1年半の研修期間を設定し、あと半年あまり後に独立自営農家になろうとしている。二人とも借用できる農地が見つかり、今秋の就農を期して営農計画を作る段階になった。いずれも指導農家に倣って多品目野菜の生産農家をめざす。

指導農家と研修生:女性研修生は35年超のベテラン有機農家のもとで。男性研修生の指導農家のもとには週一や週二の研修者も集う。

 これまで、一般的には新規就農者の主体は大半が男性だった。衆目のイメージするところもほとんどは男性で、夫婦で就農する場合も顔になるのは多くが男性だった。役所の相談窓口でも、夫婦の相談者に担当者が語りかける相手は主に夫だったし、受け答えも多くは夫が務めているのではないか。

 そうした固定観念や慣習は、もうよした方がいい。いわゆるジェンダー平等を農の世界にも反映すべき時だ。あるいは、もっと農の神髄に近づこうとするならば、女性が主役でもいいのではないかと思う。

 研修生の女性は、勤めを持つ夫とともに3人の男児を養育する母親である。学校や保育所の送り迎えなど、家事に育児にと忙しく奔走しながら研修に通う。その逞しさには感心するばかりだ。彼女の夢は、子ども連れでたくさんの家族が交流できる農園を作ることだそうだ。畑で語り合い、一緒に汗を流す団らんの場を作りたいのだ、という。もちろん稼ぎたい、農で生計をたてなければならない。だが、金を稼ぐだけの目的ではさみしいじゃないか、と本人は言う。

 私は以前から、農の主役は女性の方がいいのでは、と思うことが多かった。とかく男性が農を語るとき、経済の話になることが多い。大上段に構えた農論議も必要ではあるが、農の結果としての農産物のありかた、その消費場面をイメージできる話は男性間ではとても少ない。男性はあまり食品の買い物に行かないし、台所に立つことも少ない。乳幼児や学童の食べものなど、細かな気配りを必要とする食のことは、ほとんど女性が務めてきた。だから、農産食品の生産は女性が主体で担った方が健全になるに違いない。

 身近な農の世界に、少しずつ女性単身農家が増えてきた。夫婦で取り組む場合でも妻がリードする事例が、私の周辺にはいくつもある。歓迎すべき状況だ。「いわゆる主婦」が新規に農家になることが特別視されたりしない、そんな農村であっていい。女性の就農者を増やそうではないか。

 古来、女性は太陽だった。農産物は太陽の恵みなのだ。