自然共生の農と食を未来人の手に(2) 新・農家100万戸育成計画(その四、有徳人たちの力)

 技術と経営を教えて就農に導く指導者のあり方にも、二つの例がある。一つは行政と連携し、国や都道府県の支援制度を使って手厚く就農者を育てる「認定研修機関」のあり方。もう一つは、制度に頼ることなく個人的に就農者を育てる例である。研修機関の認定を受ける条件を満たせないとか、その手続きが煩わしいとして、全くの個人意志と手弁当で農家育成に尽力する人たちだ。

 茨城県の例を紹介しよう。茨城県には、認定研修機関が8団体ある (2023年現在)。うち3つが農学校で、県立農業大学校と民間の2専門学校である。他の5団体は、茨城県農林振興公社、1市、2農協、私も関わる1有機農家協議会である。このうち有機農業者育成を行っているのは、1専門学校と1市、1農協、1農家協議会の4団体である。個人農家にも認定研修機関の道は開かれているが、その条件を備えることはきわめて難しいので実現していない。

茨城県農林振興公社HP記事から転載

 さて、前話で就農者育成率のことを書いた。茨城県の例はどうだろうか。3つの農学校は、広く多くの人を対象に農業研修を施すことができるが、着実な就農者育成となるとその数は少ない。投資に見合った農家育成にはつながっていないのだ。いわば農業を知る入門学習の場としての役割であり、農地確保や営農開始までの個別具体的なお世話ができずに終わってしまう。私の専門学校時代がそうだった。

 県農林振興公社は、指導力ある農家に研修を委託して就農者育成を行っており、実質は個別農家の意志と力量に頼っている。1農協もその方式である。研修団体として自ら実践的に就農者育成を行っているのは1市1農協1協議会の3つの農家集団で、いずれも有機農家育成を行っている。

 学校以外の5団体は、つまるところ徳のある農家の努力で就農者育成がなされているのだ。後進を育てようと強固な意志を持つ農家の存在なしには、着実な就農者育成ができないという事実だ。身も蓋もない言い方を許してもらえば「農家でないと農家を育てられない」現実があるのだ。

 研修機関として公の認定を受けずに農家育成を担っている個人農家、農業法人が別にある。農家や法人経営者の徳に依らずには、負担の大きい研修生のお世話ができるものではない。見聞きするたびに頭が下がる思いになる。

 茨城県の8団体は、他県に比べて多いのか少ないのか分からないが、各団体とも農家育成はせいぜい年に1~2戸でしかない。撤退農家数の穴埋めにはほど遠い。

 8団体が総力を挙げて農家育成に尽力しているといっても、内実は有徳人たちの力あってのこと。人を育てられるのは人でしかない。この真実を、いかに100万農家育成につなげるか。人への意味のある投資計画が要だ。