この国のかたち(15) 国民の食料をどうするのだ(その二)

 食料・農業・農村基本法改定案の審議について、国会審議が続いている。朝日と赤旗で、その取り上げ方を比べてみようと、4月1、2、3、4、5と5日間の記事を確認してみた。朝日はこの間、1行も記事にしていない。対して赤旗は1日、3日、4日、5日とほぼ連日取り上げている。

 赤旗は、1日「重大法案目白押し」として、経済秘密保護法案、子ども・子育て支援法案、離婚後共同親権入管難民法案と並べて「農業基本法案」の課題を紹介している。3日は「自給率向上明記せよ」、4日は「農業は公益的使命担う」、5日は「自給率向上へ支援こそ」の見出しで、農家減少に対して改定案は無策であること、自給率向上の課題が後退していることをきちんと指摘している。

赤旗5日の記事では、別枠で衆院農林水産委員会参考人、鈴木宣弘東大特任教授の意見陳述要旨を載せている。要点を、列記してみよう。

・(農家の)平均年齢68.4歳とあと10年で日本の農業農村が崩壊しかねない

・お金を出せば、いつでも(食料を)輸入できる時代は終わりを告げた

・改定案は、食料安全保障確保の必要性を掲げているが、自給率向上の必要性と、そのための政策が書かれていない

・輸入先との関係強化や海外での農業生産を増やしても、不測の事態に物流が止まれば日本に入ってこない。一番必要なのは国内生産の強化である

・平時に輸入に頼り、国内生産を支えないでおいて有事だけ作れと言われても無理。普段から自給率を高めて置けば済む話

・(改定案では)定年帰農や半農半Xなど多様な農業経営形態が、農村コミュニティや生産を維持するために重要な存在であることが反映されていない

・水田を水田として維持することが、有事の食料安全保障の要であり、地域コミュニティ、伝統文化も維持される。日本の水田をフル活用すれば1200万トン作る潜在能力がある(2023年生産量662万トン)。米を増産し国の責任で備蓄すれば危機に備えられる

アメリカから武器を買うのに43兆円も使うのなら、まず命を守る食料を国内で生産するのに使うのが先だ

・種子の問題が深刻。野菜の9割は海外でタネ取りしていて、これが止まると自給率8%。種子を国内で循環させ、農家の自家採種の権利を基本法に明記を

・苦しんでいる農家の所得を改善する政策、担い手を支えて自給率を上げるために、直接支払い(補助金)などの充実が一番に追加されるべき

・農家の疲弊は消費者、国民の命の問題。国民の食料と農業農村を守るための抜本的な政策と予算が不可欠だ

▶ もう一人の参考人、東大の安藤光義教授は「農業は作物を生産するという経済活動だけではなく、国土をケアする役割を果たしている。それが少なくなった人数でできるかには、疑問符を付けざるを得ない」と陳述している。

 こうした真っ当な主張、心配を改定案に反映できるかどうか。それは、国会議員の認識一つにかかっている。このまま修正されずに法案が通ってしまったら、10年後、20年後の国民生活がきわめて危ういものになるだろう。各政党の判断を注視しよう。次の選挙で私たち国民の選択が重く問われることになる。

 

 朝日は農業基本法案のことは全く取り上げなかったが、5日紙面に「加速する農機具の自動運転、日本の農業救う?」の記事があった。「コンバインなど農機具の自動運転化に向けた技術開発が加速している。…… 普及すれば高齢化や人手不足に悩む日本の農業の活性化につながるとの期待がある」とある。

 誰が期待しているのだ。「1台税込み約2200万円からで、自動運転機能がないモデルより500万円ほど高い」そうだが、買える農家が存在するのか。米農家の時給10円(2020、2021年)の実態と大きく乖離している企業の活動を、得々として記事にする朝日新聞の農の認識に唖然とする。