自然共生の農と食を未来人の手に(1) 農の再生に向けて

 これまで、日本の農と食の危機的状況、農にかかわる環境の諸問題について縷々述べてきた。その問題点をもう一度ここで確認し、その解決のためには何が必要かをあらためて整理してみたい。

 その一。日本の食料自給率が38%にまで落ち込み、諸外国からの輸入に頼らずには国民の食と健康を維持できない現状がある。もっと言えば、国内の農業生産を支える肥料原料、家畜飼料、種子、燃油までもがその大部分を輸入に頼っており、正味の自給率はさらに低い。数十年先の見通しでは食料輸入は不安定化し、肥料原料、家畜飼料なども同様に輸入が困難になると予測されている。国民の食料安全保障が確実に重要度を増している。

 その二。食料自給を担うべき農家の数が激減し、急激に農業生産の減退を生み出している。このままではごく近い将来において国産食料の供給が危機に瀕することになる。農家の減少は地域社会の維持を困難にし、里山や河川など自然環境の手入れも行き届かなくなる。農山村、すなわち上流域の環境維持が不適切になれば、下流域の都市にも悪影響が及ぶ。気候変動による暴風雨、水害や土砂災害などの激甚化にさらに拍車をかける危険が増す。上流域の過疎化、農家の高齢化と減少で草刈りが困難になって除草剤使用が増え、結果として土砂災害を大きくしているなどがその一例である。農村地域の人手が減ることによる多面的な悪影響が現実化してきた。

 その三。気候危機、生物多様性の喪失、農地土壌の劣化、窒素とリンの環境汚染など、これまでの慣行の農林業が環境破壊に大きく関わってきたことが明らかになった。世界的な事実であり、日本においても例外ではない。世界は急速に有機農業への転換を果たしつつあり、そのための投資に積極的であるが、わが国は大きく出遅れている。

 その四。日本の方向転換が遅れたのは、そもそも国政上の農業施策が他の課題より下位に置かれてきたことが根本にあるが、有機農業の意義が長く認められることなく、農政上の後進性が大きな要因である。世界は有機農業から、さらにその先の環境再生型農業をめざし、傷んだ環境を修復できる農業へと進もうとしている。日本の出遅れを取り戻すべく発出された「みどりの食料システム戦略」を実現できるかどうかは、その必要条件の整備が重要課題である。

 その五。農家の激減を止め、V字形に農家数を増加、復活させるためには、農家育成のしくみを整え直す必要がある。農外からの就農志向者の過半が有機農業をめざす傾向にあるが、そうした人々を導いて就農を実現させるシステムが未整備である。農村現場の体力には限界がある。有機農家を育てる支援策、実践教育の再構築が重要課題であり、それを急ぐ必要があるが、教育と普及を担う指導的人材が足りない。有機農業の指導者育成が喫緊の課題である。

 以上の5課題は、長年のわが国農政のあり方が背景にある。未来人の食を保障し適切な地域環境を維持するためには、農政の位置づけを抜本的に見直して農業予算を大きく拡充することが求められる。都市と地方の経済的バランスを最適化すること、諸々の環境問題への緩和策、適応策も、農政の見直しが大きなカギになる。