有機農業とその技術(6) 有機農法の多様性(その二)

▶ 日本の有機農業には、歴史的に一本の太い背骨のようなものが通っている。この中心柱のような有機農業は、表の右から2番目である。家畜糞から近辺の草木由来有機物、家庭生ゴミなども有効に使う有機農法である。稲作と多品目畑作物の栽培のかたわら家畜飼育も行う複合農業で、近代以前の伝統的な日本の農家の姿を受け継いでいる。

 農の目的は家族の健康と豊かな生活であって自給が基盤。その延長上で市民の生活と健康に貢献しようとするため、生産物は主に直販する。農法においては自然環境に十分配慮して負の影響を及ぼさないことを重視する。明確な目的と農法上の原則を遵守しつつ、技術展開は柔軟で融通無碍でもある。新規就農者が大半を占める家族経営有機農家の大部分が、おおよそこの範疇にある。

 近年の傾向として家畜を持たない有機農家が多いことと、スタッフ雇用や研修生受入れを行うなど農地規模を拡大して法人化するなど少数の例もあるが、生産物を届ける先の市民と目的を共有して、自らの営農の先に豊かな自然環境と公正な社会の姿を求め、そこに参画しようとする思いは同じである。

▶ さて次に、20世紀後半から登場したのが、右端の量販型有機農法だ。経営の姿は2型がある。初期投資で多数のハウスを建て、周年でホウレンソウやコマツナなどを連作する「法人型経営」と、地域内で複数の家族経営有機農家が集団で取り組む「生産組織型」である。いずれもJAS有機認証を得てスーパーや生協と取引するなど、一般市場からの要請に応える営農型だ。

 農法上の特徴は、いずれも単独経営内では少品目栽培で、土壌診断を前提にして肥料メーカーに作らせた有機肥料を使うこと、雨除けハウスと防虫ネットの施設設備で害虫侵入を防ぐ「環境遮断型」を基本に生物農薬など最新の病害虫対策資材を使うこと、である。試験研究機関の成果と連動した企業開発の最新技術を使うためには、品目を絞ってマニュアル化することが求められる。主要な作目は、そうした技術を導入しやすい軟弱野菜と根菜類であるが、近年ようやく果菜類に手を伸ばすようになってきた。また、技術マニュアルの整備で少品目露地栽培も広がりつつある。

 生産物の安全安心を謳うことを第一目的にし、卸業者や小売店の周年需要の期待に応えるために作期の短縮、単品目連作、大面積化などが近年の特徴である。地域に人を求めてパート雇用し、収穫調整のルーチン労働に頼るやや工業的な性質を持つ。

 この量販型有機農業には特徴的な課題、リスクもあるので、そのことは次回に紹介する。