有機農業とその技術(6) 有機農法の多様性(その五、自然農法)

 自然農、自然農法などと実践農家が自称するが、これらも有機農業の内にあり有機農法の一画をなしている。では何が違うのか。その手法にどのような特徴があるのか。

 「自然農」は不耕起と無施肥が基本原則である。人が耕すことは自然の摂理に反し、自然を傷つける行為である。人為的な栄養投入も最少にすべきである、とする。作物 (植物) が健やかに育つ土台は自然生態から学べばよいとして、耕起耕耘と施肥を行わないのである。

 この自然農は、有機農業がその先にめざす環境再生型農業 (大地再生農業) の日本型のベースになるかと思う。環境への負荷を最小にして、あるいはこれまでの損傷を修復する可能性をもった農法であるが、課題がたくさんある。草とどのように対峙するか、共存するか、あるいは草を活用できるか。草と折り合いをつけながらいかに生産を確保していくか。技術の普遍化には越えなければならない課題が幾重にもある。

 課題は多いが、有為なヒントがたくさんある。無施肥でありながら一定の生産を維持できるのはなぜか、作物と土の協演によるその果実は、農業界全体が学ぶべき要諦ではないか、と思うのだ。耕さないが故に生み出される「土壌内の生きものの働きの大きさ」が、作物生産にいかに大きな貢献をしているか。低投入の極致が持続性の最大の土台になるのだ。しかも、そこに草の存在、草と共生微生物の存在、草陰に集まる小さな多様な虫の働きに注目しなければならない。

 次に、「自然農法」にはいくつもの流派、流儀が存在する。不耕起を重視するグループ、機械耕耘を否定せず投入有機物にこだわるグループ、投入有機物をできるだけ少なくしつつカバークロップなど有用植物を多彩に活用するグループなどだ。雑草とのつき合い方もさまざまである。

 各流派の現場を客観的に科学的な目で見ていると、それぞれの試行錯誤の中にとても有為なヒントがたくさん表現されていることが分かる。中心柱的有機農法の農家も、右端の量販型有機農法にたずさわる法人経営者も、自然農法の取組みの経緯からぜひ多くを学んでほしいと思う。表の右側の有機農家は左側に未来の技術が隠されていると知ってほしいのだ。

 左側の人々は、その農法に潜在している大きな可能性を正しく評価してもらうためにも、右側の有機農法を営む農家から「規模と効率性、生産性」の技術手法を学んでみてほしい。両極の長所を相互に活用し合えば、未来の有機農業がより正当な発展をなし遂げることができるのではないか、と期待する。

 この一覧表は、そんな願いを形にしたものなのだ。