有機農業の技術

有機農業とその技術(6) 有機農法の多様性(その五、自然農法)

自然農、自然農法などと実践農家が自称するが、これらも有機農業の内にあり有機農法の一画をなしている。では何が違うのか。その手法にどのような特徴があるのか。 「自然農」は不耕起と無施肥が基本原則である。人が耕すことは自然の摂理に反し、自然を傷つ…

有機農業とその技術(6) 有機農法の多様性(その四、低投入持続的農業)

有機農業の別名は「低投入持続的農業」である。有機農業の「有機」は、さまざまな生命との調和と共生を意味し、農家が採る手法、農の生産とくらしの過程を表している。個々の農の現場を認識する際の表現といってもよい。有機農家は自らの農を「有機農業」と…

有機農業とその技術(6) 有機農法の多様性(その三)

量販型有機農法は「もうかる有機農業」モデルとして、指導行政が真っ先に言及する。国が目標とするスマート有機農業、マニュアル型有機農業に合致すると考えるからだろう。だが、この有機農法には、いくつかの重要な問題点が存在する。以下に列記してみよう…

有機農業とその技術(6) 有機農法の多様性(その二)

▶ 日本の有機農業には、歴史的に一本の太い背骨のようなものが通っている。この中心柱のような有機農業は、表の右から2番目である。家畜糞から近辺の草木由来有機物、家庭生ゴミなども有効に使う有機農法である。稲作と多品目畑作物の栽培のかたわら家畜飼育…

有機農業とその技術(5) 技術展開(接ぎ木、その二)

“接ぎ木” は、元は建築用語だった。柱や梁を繋ぎ合わせる部分を接ぎ木といった。果樹栽培で土壌病害に強い同種または同属の台木に接ぐ技術が生まれ、その後は野菜や花木、サボテンなどに応用されるようになって、今に至っている。 接ぎ木のもっとも顕著な貢…

有機農業とその技術(5) 技術展開(接ぎ木、その一)

私は若いころ、果菜類の接ぎ木を研究課題にしていた。師匠の丸川慎三先生がウリ類の接ぎ木に使う台木カボチャの研究者だった。キュウリやトマトなど施設栽培で生じる土壌伝染性病害(連作障害)の対策として、当時は殺菌殺虫剤(毒ガス)の土壌処理か抵抗性…

有機農業とその技術(4) 技術の自給(その四、育苗)

近年、育苗と栽培の分業化が進んで、自家で苗を育てずに購入する農家が増えてしまった。育苗の手間を省こうというのだろうが、結果的に苗づくりの技術が農家の手から奪われつつある。苗を買うのは主にトマトやナスなど果菜類。水稲苗を農協に委ねてしまう例…

有機農業とその技術(4) 技術の自給(その三、採種)

近年、野菜などの種子を買うと、袋裏面の種子 “生産地” 欄にアメリカ、オーストラリア、インド、韓国などと表示されている。私が今年買った種子のうちキャベツだけ香川県というのがあって少しホッとしたが、市販される野菜種子のほとんどが外国産になってし…

有機農業とその技術(4) 技術の自給(その二)

今回の話題は有機農業のことではないが、その思想に通ずるものがあるので取り上げてみたい。新聞「農民」(11/13) に「マイペース酪農が日韓環境省を受賞」の記事があった。日韓国際環境賞は、毎日新聞と朝鮮日報社主催の賞。 うかつながら、マイペース酪農と…

有機農業とその技術(4) 技術の自給(その一)

技術を金で買う、技術を第三者に委ね管理されている、現代農業の重大な欠陥がそこにあるのではないか。私がずっと抱いてきた懸念である。 農業がもうからない商売であることは世界共通である。国や地域の経済発展レベルとは無関係で、資本主義経済においては…

有機農業とその技術(3) 土づくり(その七、ボカシ肥料Ⅱ)

ボカシ肥料は、身近に手に入る次のような材料を混ぜ合わせて作る。 ・粒状または粉状の廃棄有機物、農業副産物、食品製造残さ、など 米ヌカ、小麦ヌカ(ふすま)、油カス、魚カス、オカラ乾物、クズ大豆、クズ麦、生ゴミ発酵処理物、発酵鶏糞、果汁搾りカス、…

有機農業とその技術(3) 土づくり(その七、ボカシ肥料Ⅰ)

米ヌカや油カス、魚粉などは、そのまま肥料として農地に投入することもできるが、窒素成分が急激に溶けだして栽培初期に「効き過ぎ」たり「生育障害」を発生させてしまうことがある。そこで昔の人は、そうした有機物に土を混ぜて発酵させたものを使い、肥効…

有機農業とその技術(3) 土づくり(その六、ミミズ)

地球の表面に薄く存在する土壌は、実はとても繊細な構造物だといわれる。恒常的に動植物と微生物のはたらきによって生成と損耗を繰り返している。その生成に最も大きなはたらきをしているのがミミズである。ミミズがいなくなると、土は土としての性質を失っ…

有機農業とその技術(3) 土づくり(その五、腐葉土と床土)

「農と暮らしの技(2)肥土(苗床の土)」で、育苗用土のことに触れた。ここではもっと掘り下げて書いてみたい。 育苗用土にもっとも一般的に使われたのが腐葉土である。材料は落葉広葉樹の落ち葉のほかに、西南日本では常緑広葉樹の落ち葉が使えるし、海辺…

有機農業とその技術(3) 土づくり(その四、植物質堆肥)

日本土壌協会という団体がある。土壌の健全化や環境保全型農業の推進などを目的にしている専門家集団で、土壌医の認定も活動の一つだ。この土壌協会が堆肥の優劣を確認する方法として「堆肥に直接コマツナの種を蒔いてみよう」と言っている。順調に発芽する…

有機農業とその技術(3) 土づくり(その三、家畜糞堆肥)

作物栽培の現場の土づくりは、どうしたらいいのだろう。 田畑の土づくりは堆肥の施用が基本になるのだが、その使い方にはいくつか注意すべき点がある。近年の堆肥の特徴と、いくつかの問題点を確認してみよう。 もっとも多く使われているのは牛糞堆肥(堆厩肥…

有機農業とその技術(3) 土づくり(その二)

自然界で土を作っているのは誰なのか。 どのようにして土ができてくるか、その生成過程を知るには、腐葉土や堆肥を作る経験が役に立つ。腐葉土のでき方を再現してみよう。 落葉樹の落ち葉を集める過程で、その年の落ち葉のほかに地表の「腐葉」も少量が混ざ…

有機農業とその技術(3) 土づくり(その一)

土とは何か、土はそもそもどのようにしてできたものか、その成り立ちを知ることから始めなくてはならない。 生物のいる星、地球には土があるが、生物のいない月には土がない。アポロ11号のアームストロング船長が月に最初の第1歩を下ろした時、舞い上がった…

有機農業とその技術(2) 有機農法の要点

求めるべき今後の農のあり方、より適切な有機農業の姿を明らかにするために、まずは有機農業の目的にかなう技術、農法の要点を整理してみたい。有機農業の技術の基本は次の5項目に集約できる。この5項目と先に示した農法5類型の特徴を交差させて一つひとつ確…

有機農業とその技術(1) はじめに 

これまでの農業のあり方は、地球環境を悪化の方向に促す「負の役割」を担ってしまった。他産業と連なって地球温暖化・気候危機に加担し、生き物の大量絶滅の主犯となり、農地の劣化と水圏汚染を進めて未来の食料生産を危機に陥れた。早急に農法を改めないと…