有機農業とその技術(6) 有機農法の多様性(その三)

 量販型有機農法は「もうかる有機農業」モデルとして、指導行政が真っ先に言及する。国が目標とするスマート有機農業、マニュアル型有機農業に合致すると考えるからだろう。だが、この有機農法には、いくつかの重要な問題点が存在する。以下に列記してみよう。

▶ ハウス土壌の高地温は有機物分解を早める。周年連作に加えて連年の太陽熱処理で土壌が酷使され、劣化しやすい。雨除け栽培で塩類集積のリスクがあるが有機肥料でのそれは化成肥料による塩類集積よりも修復が難しい。土壌劣化により、有機栽培でも連作障害の危険が高い。

▶ 周年需要に応えようと休閑や堆肥投入、緑肥導入を避けるなど、土づくりを疎かにする事例が多い。その結果が上の問題につながる。

有機肥料を自家調製せず、ほとんどの事例で購入肥料に頼る。供給する肥料業者は収益を考えて安価な肥料原料を遠くに求め、地域資源の循環利用が疎かになりかねない。生産者は堆肥や有機肥料の知識が片寄り、自ら作る技術を身に付けられず、技術継承ができない。肥料コストが大きくなる。

▶ 防虫ネットで周辺生物から隔離したハウス栽培、あるいはトンネル栽培に特化することが多く、周辺環境と遮断する技術が基本である。完璧な遮断が最優先されることから、環境生物との共生が課題にならず経営者の環境意識が薄弱になりやすい。

▶ 防虫ネットや生物農薬、天敵製剤など外部資材への依存性が高まり、自前の技術技能を磨く意識が育たない。

防虫ネットで隔離栽培。施設周辺を無機的に整備する事例があり、これまでの有機農業のイメージとはかけ離れたものもある。大型ハウスで果菜類有機栽培も試みられるようになった。

 過去30年、各地のさまざまな有機農業現場を見てきた。金銭的には貧しいかもしれないが心豊かな表情で自らの農業を誇らしく語る家族経営有機農家がたくさんいた。その農法も多彩で十人十色。みな自分の農法に愛着があり、さらにそれを磨こうと努力していた。折々に失敗もあるが、その経験を糧にして独自の有機農法を磨き上げる喜びが垣間見えた。ゆとりを感じるのである

 法人経営者たちも自らの農業経営に誇りを持ち、従業員のくらしを支えることにも努力を惜しまない。その姿勢には感心することが多かった。だがその経営には何かしら切迫感があり、ゆとりが無いように思われた。経営上のストレスが大きいのだろうが、その根底に量販型有機農法に特有の「技術的な問題」が横たわっていて、それを自覚している経営者もいた。

 前向きに土づくりしようとする有為な青年経営者の事例もある。克服できない課題ではない。学ぶに値するカギは一覧表の左側にある。異種の有機農法との技術交流が要諦であろう。