有機農業とその技術(3) 土づくり(その七、ボカシ肥料Ⅰ)

 米ヌカや油カス、魚粉などは、そのまま肥料として農地に投入することもできるが、窒素成分が急激に溶けだして栽培初期に「効き過ぎ」たり「生育障害」を発生させてしまうことがある。そこで昔の人は、そうした有機物に土を混ぜて発酵させたものを使い、肥効を「ぼかす(緩くおだやかにする)」工夫をした。これをボカシ肥(ぼかしごえ)と呼び、今に伝えられている。

 さまざまな材料が試され、土を混ぜないで作るなど、各地でいろんな工夫があり、現代のボカシ肥料は一様ではない。身近に手に入る有機物を使って作物の健全生育に役立てられる自給肥料として、その多様性と有用性は広く認められている。

 「ボカシ(bokashi)」は今や国際語になった。1970年代に青年海外協力隊員が派遣先の中米でこれを紹介したところ、肥料自給の手軽さと確かな肥効が認められてすぐに普及した。中米は国域を超えたNGOの活動があり、情報交換しながらそれぞれ地域で入手できる材料でさまざまなボカシ肥料が作られている。

 私は2006~2020の15年間、中南米諸国の農業技術者、指導者を対象としたJICA事業「有機農業技術研修」プログラムに協力してきた。当初は勤務していた鯉淵学園で担当し、退職後の2012年からはNPOあしたを拓く有機農業塾として受託した。中米各国はすでに有機農業先進地域であるが、日本の有機技術には高い関心を示した。来日した15人ほどの研修者たちは、零細農民を指導対象とする普及員や学校教員、市町村職員、NGOスタッフ、若い農民代表などであり、身近な資源を使う技術に特に関心が高かった。病害虫対策技術とともにボカシ肥料は共通の話題になった。彼らのボカシ肥料と日本のそれとは若干の違いがあり、彼らも私の指導を喜んだが、私も彼らから大いに学ぶことができた。

有機農業研修でボカシ肥料作り実習、中米の研修者たち

 ボカシ肥料は、今や有機農業技術の柱の一つになっている。日本では有機農家が自作して使う事例のほか、有機農業法人有機農産物を共販する農家組織などでは、肥料業者にレシピを示して委託製造して使う事例も増えている。肥料メーカーが独自に商品化し、家庭菜園用にホームセンターで売られてもいる。

 課題が一つある。農家が自作する場合はまだしも、肥料メーカー製造においては材料に何を使うか、どこから調達するかが問題なのだ。安く作ろうとして海外産の有機物を使ったりすれば、「なぜ有機農業を推進するのか」の本旨を逸脱しかねない。購入して使う農家や法人は、その材料と由来に関心をもつ必要がある。

 ボカシ肥料の作り方、使い方は今やネットにも情報がふんだんに載っている。拙著「解説日本の有機農法」にも詳述しているが、次回に概要を紹介しよう。