有機農業とその技術(3) 土づくり(その三、家畜糞堆肥)

 作物栽培の現場の土づくりは、どうしたらいいのだろう。

 田畑の土づくりは堆肥の施用が基本になるのだが、その使い方にはいくつか注意すべき点がある。近年の堆肥の特徴と、いくつかの問題点を確認してみよう。

 もっとも多く使われているのは牛糞堆肥(堆厩肥)だろう。1960年代以降に家畜飼育が専業化されて、酪農(乳牛飼育)、肉牛飼育の農家や法人からまとまった量の牛糞堆肥が供給されるようになった。耕種農家(作物栽培農家)はこれを有償無償で譲り受けて田畑に投入するようになったが、こうした畜産業からの牛糞堆肥は、昭和の時代まで耕種農家が自前で作っていた植物質堆肥と性質がだいぶ異なる。使い方に気をつけなくてはならない

 肉牛飼育(養畜)では、敷料(床に敷く有機物)に主としてオガクズを用いている。農家によってはモミガラを用いる例もある。モミガラ混じりの牛糞堆肥であればまあまあいいが、オガクズの混ざった牛糞堆肥は投入量に気をつけなければいけない。オガクズ(木クズ)部分は農地土壌中でなかなか分解されないので、糞の部分だけが早く溶けて窒素とカリウムの過剰溶解が起こりやすい。特に近年の牛糞堆肥化は法律により雨をよけた施設で行われるため、カリウムが流れずに残り、施用すると畑地のカリウム過剰害を促してしまうことがある。面積あたりの投入量は少なめにしたほうがいい。

20年以上前の写真 左:オガクズ混じりの肉牛糞堆肥              右:今はもうない「稲わら混じりの酪農牛糞堆肥」

モミガラをたっぷり敷いた平飼いの鶏舎。糞は鶏にかき回されて発酵し    「鶏糞ボカシ」になっている。


 近年の酪農は敷料を用いないので、糞だけが集められて乾燥処理される。未熟発酵状態で分譲されるため、肉牛糞堆肥以上に注意が必要になる。酪農家によっては処理過程でモミガラなどを混ぜ込んで、より使いやすい堆肥にする工夫の例もみられるが、規模の大きな酪農法人などでは強制乾燥で済ませてしまっていることが多い。

 豚糞堆肥も酪農牛糞堆肥に類似の処理をされている。鶏糞にいたっては、もはや堆肥とは呼べず、乾燥鶏糞または発酵鶏糞ともに肥効の早い「有機肥料」である。むしろ「ボカシ肥料」材料に適している。

 30年近く有機農業に関わってきた者としては、経験的に、家畜糞堆肥よりは自前で作る植物質堆肥の方がより使いやすく、かつ作物栽培に適すると考えている。刈り草、野菜残さ、生ゴミなどを野外に堆積し、雨にあてながら自然発酵させてできた堆肥は多めに入れても害がない。栄養成分もまんべんなく適量が含まれて「完全肥料」そのもの。有機作物栽培にうってつけである。その理由は次回に述べよう。

 ただし、家畜排泄物が放置されると環境汚染につながるし、廃棄物処理として扱うと別の問題も起こる。必然的に広く薄く適切に農業利用しなければならない。使い方の技術、農家の心得が課題であり、よき指導者が求められる。