有機農業とその技術(3) 土づくり(その二)

 自然界で土を作っているのは誰なのか。

 どのようにして土ができてくるか、その生成過程を知るには、腐葉土や堆肥を作る経験が役に立つ。腐葉土のでき方を再現してみよう。

 落葉樹の落ち葉を集める過程で、その年の落ち葉のほかに地表の「腐葉」も少量が混ざって付いてくる。その腐葉にはさまざまな微生物、クモ、小さな昆虫などがくっついていて、堆積山に紛れ込む。後にこの堆積山に大きな昆虫が産卵もする。落ち葉の分解の最初の段階は、まず虫がはたらく。もっとも大きなはたらきをするのがカブトムシやカナブンなどの幼虫だ。

 虫が葉を食べることで細断され、次にカビが増殖して分解にはたらく。この過程で、虫の糞、カビの分解過程でできた分子量の小さな有機物に酵母や放線菌、細菌などが取りついてさらに発酵分解を進める。

 虫によって細断された程度の葉片から放線菌や細菌による発酵過程を経た有機物質、さらには再合成された腐植までが混ざりあったものが腐葉土だ。色は黒くなり、しっとりと湿っていてほんのりと土の匂いがする。腐熟の進んだ腐葉土にはミミズが入り込んでいる。

 新鮮な落ち葉にはほとんどタンパク質、デンプン、脂質は残っていない。ほとんど繊維質だけの固い有機物だが、虫はなぜそんな栄養の少ないものを食べるのだろう。食べても自分の身体を養えないのではないかと、そんな素朴な疑問を覚えるのだが、実はここに土の栄養の秘密が隠されている。

 人の住む家の根太や柱をかじる厄介な虫 “シロアリ” もそうだが、カブトムシの幼虫のお腹には窒素固定をする細菌が共生している。幼虫が無栄養の落ち葉を食べると、お腹の中の細菌がリグニンやセルロース分解に協力して糖分を分けてもらい、お返しに窒素固定細菌が虫にアミノ酸を提供するのだ。たっぷりアミノ酸をもらった虫は、アミノ酸アンモニウムを含んだ糞をする。栄養たっぷりの糞にさらにカビや細菌がとりついて腐葉土を完成させていくのである。

 無栄養だった落ち葉は、さまざまな生き物の連携プレーで窒素栄養を蓄えた腐葉土に変身する。この腐葉土中には、落ち葉の中に残っていたリンやカルシウムなどのミネラルも、微生物のはたらきで可溶化されて含まれている。この過程ではミミズのはたらきもとても大きい。

落ち葉を集める

1~2年かけてできる腐葉土

 

カブトムシの幼虫、お腹の中に窒素固定菌が共生する

 

 森林や草原では、林床の落ち葉や枯れた下草が年々積み重なって天然の腐葉土が生成している。こうして連綿と、次の世代の植物を育てる力をもった「新たな土」が作られているのだ。