この国のかたち(6) 未来人のためにすべきこと

 朝日新聞に「序破急」というコラムがある。

 ちなみに、序破急(じょはきゅう)とは何だろうと調べてみた。元は雅楽から生まれ、古い芸道の世界に及んだ言葉で、序(ゆっくりで自由なスタート)、破(テンポアップする中盤)、急(クライマックス、そして終わり)の3部構成のことだそうだ。起承転結の4段構成とともに作文に使われるという。

 10月9日の五郎丸健一氏による『「未来人」になってみた』が、まさに当を得た指摘だったので、ここに紹介したい。

  「未来にタイムスリップし、その時代の人になりきって現代にメッセージを送る」という、財務省が記者向けに開いた仮想の体験会に参加した。他の参加者らと2070年の社会の姿を想像したところ、「地球温暖化で環境の制約が大きい社会」「食料が高くなり種類も減る」「再生可能エネルギーが豊富な北海道に産業が移り、札幌が首都に」などの予想が出たとある。

 2023年の人に伝えたいことは、「問題はわかっていたはず。深刻になる前に早く手を打ってほしかった」との思いだった。現代に戻り何をすべきか参加者と話し合い、「食料生産や再エネ拡大に、税制や補助金、規制を総動員する」の結論に至ったと書いている。

 この、長期の課題を考える際に未来人の視点を採り入れる「フューチャー・デザイン」(小林慶一郎慶応大教授)の考え方が採用されたのだそうだが、そんなことは素人でも思いつくことではないか。私の想いはずっとそうだった。

 五郎丸氏はさらにいう。「現実の政治では、“今さえよければ” という風潮が強まるばかりだ。岸田政権は安定財源の確保を脇に置き、防衛費や子ども予算の大幅増に踏み出した」「想像力を持つために、まず国会議員たちが『未来人』を体験してみてはどうか」 

 未来人の視点は、国会議員たちはもとより政府や自治体首長らには必要欠くべからざる見識であるべきだ。防衛費とは言いよう、戦争準備費に5年間で43兆円も使うなどもってのほか。未来人の希望を打ち砕くことなく、未来人の命とくらしを保障するために現代人のなすべきことは明らかだ。辺野古、万博、IRカジノなどへの公費投入がいかにばかげたことか。

 まっとうな政府なら、五郎丸氏らが導き出した「食料生産や再エネ拡大に、税制や補助金、規制を総動員する」の正道を行くはずだ。「序」と「破」は、国民はみな体験して知ってしまった。「急」の中身をどうすべきかは言わずもがなではないか。