環境問題と農業(3) 環境再生型有機農業(その一)

 農業は環境に何をしたのか(その七)で、世界の土壌劣化が食料危機につながるだろうことを書いた。国連「国際土壌の10年」プロジェクトで、土壌劣化を止めて農地を蘇らせる運動の今年は9年目であるが、わが国の対応が鈍いことも指摘した。

 だが、希望はある。世界各国の有機農業も先へ先へと進化している。土の再生、農地の生きもの再生に寄与できる農法があるのだ。日本でも、研究者や若い有機農家の中に「環境再生型有機農業(リジェネラティブ・オーガニック)」に取り組んでいる人がいる。

 環境再生型有機農業の手法、そのポイントは2つだ。

 1つは不耕起栽培。土をトラクターで反転し、あるいは強引にかき回すことで土壌生物が衰弱し、土壌内の有機物が急速に消耗して土の生命力は減退する。有機物の分解が進むことで土壌内に蓄積された炭素がCO2となって放出され、土壌侵食が進み、地力がますます失われる。だからまず、トラクター耕耘をやめるのだ。

 2つ目は「農地を裸にしない」こと。農閑期はカバークロップで田畑を覆う。土には常に植物が生えていることがとても重要で、植物根と土壌生物のダイナミックな関係が要点なのだ。作物栽培時期はうね間に草を生やす「草生(リビングマルチ)」を行う。雑草を刈り込みながら使う方法もあるが、各種の緑肥作物を効果的に運用する技術が世界各国で試みられている。

 環境再生型有機農業は「大地再生農業」とも呼ばれる。つい先日もドキュメンタリー『君の根は。大地再生にいどむ人びと』自主上映会があって、私も観た。主に欧米の話題であったが、農民が自主的に大地再生に取り組む姿がたくさん紹介されていた。作物栽培での試みのほか、家畜放牧と組み合わせた事例もあった。学びはとても多かった。

 ちょうど今、農文協の月刊誌「現代農業」10月号が、「耕さない農業」の特集を組んでいる。わが国にも土の再生に取り組む農家がいるのだ。日本の事例は小規模農家が多い。目と手の届きやすい小規模な「家族経営」が環境再生型農業に取り組みやすい。「家族農業の10年(2019-2028)」プロジェクトとも連動しているのだ。

 環境再生型有機農業研究の第一人者が、私のすぐ近くに住まいしている。茨城大学の小松崎将一先生。農作業学会、有機農業学会の重鎮でもあり、活躍が大いに期待される。また、私の教え子の若い農家夫婦が市内で「不耕起有機農業」を始めてもうじき4年になる。夫はアメリカ人。彼らのチャレンジは明るい未来のための灯となるだろう。成功を願ってやまない。

不耕起有機農業の「はだし有機農園」、見学会の様子