有機農業と環境

環境問題と農業(4) 二季化への対応(その二)

農業における気候変動の緩和策については、このブログでその技術改変あるいは経営のあり方を縷々述べてきた。低投入持続的農業すなわち有機農業への農法転換が必須で、さらには不耕起栽培をベースとする環境再生型農業にコマを進めること。大規模法人経営は…

環境問題と農業(4) 二季化への対応

「今年の夏は暑かった」は毎年のように使われてきたフレーズだが、2023年は表現を変えなければならない。「今年の春、夏、秋は異常に熱かった」 今年の平均気温は、春、夏、秋と3季連続で統計開始以来の最高記録となり、平年を1.34℃も上回った (11月末時点)…

有機農家を育てる(9) エッセンシャル・ワーク(その二)

2013年から7年間、私は島根県に有機農業アドバイザーを委嘱され、当初の4年間は毎年4回島根県を訪れた。農業技術センターで行われるワーキング(有機農業に関わる技術研究者と普及担当者の情報交換会)に出席して助言する役と、さらに県内各地を有機担当普及…

有機農家を育てる(9) エッセンシャル・ワーク(その一)

新・農業人フェアというマッチングイベントに行ってきた。農業に関わる求人者と農業の世界で働きたい求職者との「出会いの場」である。求人側は、学生を募集する農学校、スタッフ募集の農業法人、研修者受入れ農家集団や市町村などである。求職者は、農業法…

有機農家を育てる(8) 家族農業のすすめ(その二)

家族農業は「労働力の過半を家族労働力でまかなう農林漁業」(国連の定義) のことで2ha未満が85%、小規模農林漁業ともいわれる。わが国の家族農業経営の規模もほぼ同程度。水田稲作専業農家や、北海道の家族経営畑作や酪農などはこれよりやや大きいが。 家族…

有機農家を育てる(8) 家族農業のすすめ

昭和53年 (1978) 以来45年間、私のライフワークは「農家を育てる」だった。若いころはその自覚が希薄であちこちへと迷い、不見識がゆえの徒労もあったが、不惑の少し前あたりから目的意識は固まったように思う。 この間、私の身近で農を学びに足を運ぶ人々は…

環境問題と農業(1) 農業は環境に何をしたのか(その十)

現代人が未来人のために残すべきものに、地下資源のことがある。現代の繁栄は鉱物資源の先食いに依るものであり、未来人からはその罪を糾弾されるにちがいない。農業について言えば、肥料資源のリン鉱石やカリウム原石などについて、いずれきっと責任を問わ…

有機農家を育てる(7) 農業予算の4倍増、5倍増が必要だ

7月7日に「この国のかたち(1)もうかる農業?」で、1980年(昭和55年)と2022年を比べて国の農業予算額が大きく目減りしたことを述べた。額が減っただけでなく、国の予算総額に占める農業予算額の割合が気になったので、あらためて調べてみた。 1980年の国家…

環境問題と農業(1) 農業は環境に何をしたのか(その九)

もう一つ、農業関係者がすぐにでも対策しなければならない課題がある。貴重な有機物資源をうまく活用できないで無為に廃棄し、しかもその廃棄過程で大量のCO2を排出してしまっていることだ。 30年近い有機農業のかかわりで、とても有効な有機肥料素材が身近…

環境問題と農業(1) 農業は環境に何をしたのか(その八)

除草剤の、環境生物への影響がとても気にかかる。 今、畑地や住宅周辺で使う除草剤が、市民が日用品を買う町なかのD.I.Y店やドラッグストアで難なく買える。テレビでも「根こそぎ枯れる」などと消費を煽り、ネットで誰でもいつでも買えるこの風潮がとても気…

環境問題と農業(3) 環境再生型有機農業(その三)

不耕起栽培は、2003年から露地ナスでも試みている。 ボカシ施肥し、ロータリー耕耘後に畝立て黒マルチした一般的な有機栽培(対照区)との比較で、鍬溝にボカシ施肥して埋め戻し、藁マルチした不耕起栽培(部分耕耘、あるいは半不耕起)を、5年間連作で試験した…

環境問題と農業(3) 環境再生型有機農業(その二)

家の前の畑2反3畝(23アール)を3年前から借地して「自給有機農園+ちょっと販売」を行っている。5アールほどを通路、資材置き場、堆肥場、育苗ハウスなどに使い、13アールくらいを野菜畑、5アールを無農薬果樹園にしている。 かつて農業専門学校の教員だった…

環境問題と農業(3) 環境再生型有機農業(その一)

農業は環境に何をしたのか(その七)で、世界の土壌劣化が食料危機につながるだろうことを書いた。国連「国際土壌の10年」プロジェクトで、土壌劣化を止めて農地を蘇らせる運動の今年は9年目であるが、わが国の対応が鈍いことも指摘した。 だが、希望はある…

環境問題と農業(2) 有機農業に転換する意義(その三)

有機農業に換えれば生物多様性は守られるのか。 二つ目は、地上部の生きものについて考えてみよう。 私は過去30年間、自身の有機栽培の畑のほか、有機農家の田畑を数多く見てきた。慣行農家の田畑も同時に観察してきたので、地上部の生きものの違いはよく分…

環境問題と農業(2) 有機農業に転換する意義(その二)

有機農業に換えれば生物種の絶滅は防げるのか。 この疑問にも答えなければならないが、“農薬を使わなければ農地内外の生きものが死ぬことはない” というような単純な問題ではない。 まず一つ目として、土の生命力 について考えてみよう。 数十年前の研究成果…

環境問題と農業(1) 農業は環境に何をしたのか(その七)

農業生産が直接的に関わる4つ目の環境問題は何か。 2015年、国連食糧農業機関(FAO)は「すでに世界の土壌資源の33%は劣化していて、新たな取り組みを始めない限り2050年には一人当たりの耕作可能地は、1960年水準の4分の1になる」と警告した。このままでは…

環境問題と農業(2) 有機農業に転換する意義(その一)

化成肥料をやめれば環境負荷は減るのか。有機肥料だと温室効果ガスは減るのか、窒素とリンの投入量は減らせるのか。きっと、そんな疑問を持つ人は多いだろう。一つひとつ確認してみよう。 化成肥料はその原料となる鉱物の採掘、海を越えた輸送、工場での肥料…

環境問題と農業(1) 農業は環境に何をしたのか(その五)

生物種の絶滅は、私たちのくらしにどのような影響があるのか。 直接的には生物資源、遺伝子資源の減少のことがあるが、もっと根本的な問題として「野生生物種の減少が進むことにより、密接に関わり合った様々な生物種の相互関係により成り立っている地球環境…

環境問題と農業(1) 農業は環境に何をしたのか(その四)

農林業の最も重い罪は、生物種の大量絶滅を促していることだ。すでに1980年代から警告が発せられ、生態学の研究者などが対策の必要性を発信していたが、日本の農業界は鈍感で問題認識はきわめて薄かった。 生物種の絶滅種数について、世界132カ国の政府が参…

環境問題と農業(1) 農業は環境に何をしたのか(その三)

有機性廃棄物や牛のゲップ、水田からはメタンガス(CH4)が発生する。世界的には大気中のメタン量が増加している。メタンはCO2の25倍の温室効果があるが、廃棄物からの発生減少で日本のメタン発生量は減ってきている。農業からの発生量が横ばいであるため、牛…

環境問題と農業(1) 農業は環境に何をしたのか(その二)

気候危機と農業の関りについて考えてみよう。 まず何をおいても、私たち日本人が責任を感じなくてはならないことがある。大量の食料輸入に使われる化石燃料のことだ。食料輸入量✖輸送距離をフードマイレージといい、環境負荷の大きさを表す指標の一つである…

有機農家を育てる(6) 農家30万人に減る?

8月16日の朝日新聞に、希望をなえさせる記事があった。 タイトルは「農家の価格転嫁 制度検討」で、農家の肥料や燃料代のコスト上昇分を販売価格に適正に転嫁できるよう制度づくりの「検討を始める」というものだ。絶対に必要な対策だと思うが「ただ、農産物…

環境問題と農業(1) 農業は環境に何をしたのか(その一)

世界の農業のあり方が問われている。 「農業は環境にやさしい産業だ」などといわれた時代があったが、まるで嘘だった。残念ながら、これまでの農業は環境悪化を促す存在だったのだ。 農業が関わる主要な環境問題は4つある ①気候危機:温室効果ガス、経営上…

有機農家を育てる(5) 技術指導者が足りない

大学の農学系学部に有機農業に関連する講座や科目がいくつもあることは承知している。だが、現状の大学教育で農家が育つかどうかは疑問だ。有機農業に関わる大学教育は、土壌肥料や病害虫など技術系の狭い専門領域か、社会科学系の分野がほとんどだ。生産技…

有機農家を育てる(4) 有機農家30万人化をどうするのだ

日本の食料自給率はカロリーベースでたったの38%。食料の3分の2を輸入に頼っていて、世界196か国のうち最低ラインだ。気候危機、生物多様性の危機などから、世界中で喫緊の課題として食料問題に焦点が当たるようになった。生産性低下への懸念とともに、ウク…

有機農家を育てる(3) 研修農場を起ち上げる(その三)

NPOあしたを拓く有機農業塾は、専務者の私の事情と資金繰りの行き詰まりもあって、2022年9月をもって解散した。もっと続けたかったが、やむを得ない。研修農場は閉じることになったが「研修を受けたい」という希望者は途切れなかった。「別の形で研修できる…

有機農家を育てる(3) 研修農場を起ち上げる(その二)

57歳、そこそこの退職金を元手に始める農業。おそらく資金回収は無理だろうと思いつつそのことは妻にも言えない。12年後、結局貯金を使い果たして研修農場を閉じることになったが、成果には十分な満足感が残った。 NPO法人あしたを拓く有機農業塾(研修農場…

有機農家を育てる(3) 研修農場を起ち上げる(その一)

今から四半世紀も前の1999年のことである。鯉淵学園農業栄養専門学校の農業科に、新科目「有機農法論」を開講した。有機農業の技術を課題にした6カ月15回30時間の科目だったが、教材に困った。テキストにできる本がどこにもなかったのだ。 開講前から分かっ…

有機農産物に付加価値はありません(2)

「有機野菜はおいしい」という消費者の声がある。それは、慣行栽培の野菜と比べて味が優れるという評価なのだが、その評価は科学的に説明できるのだろうか。 食品の質を科学する農学者らの研究結果は「差がある」、「明瞭な差はみられない」の2通りで、要は…

有機農産物に付加価値はありません(1)

有機農業に関わるようになって、まもなく30年。 30年前は、農協や行政関係者から「有機」の単語はほとんど、いやまったく聞くことはなかった。30年後の今、県職員や農協の人が「付加価値のある有機農産物を」などと連呼するさまを見て、隔世を感じるとともに…