有機農家を育てる(8) 家族農業のすすめ

 昭和53年 (1978) 以来45年間、私のライフワークは「農家を育てる」だった。若いころはその自覚が希薄であちこちへと迷い、不見識がゆえの徒労もあったが、不惑の少し前あたりから目的意識は固まったように思う。

 この間、私の身近で農を学びに足を運ぶ人々は、その大多数が農業とくらしを一体として考える「家族農業」スタイルを求めていた。私の想いがそこにあったから反映された、というのではない。農に希望を見出そうとする人々の多くが「家族とともに農的くらしができる」農家、そういう農民になることをめざしていたのだ。そうした人々の想いは正当だった。

 国連「家族農業の10年 (2019~2028)」プロジェクトがそれを証明している。

 家族農業は「食料安全保障確保と貧困・飢餓撲滅に大きな役割を果たして」(農水省HP) おり、農業者の96%を占めて世界の食料生産の80%以上を担っている。さらには「社会経済や環境、文化といった側面で重要な役割を担っている」(国連食糧農業機関) という。

 対して大規模な企業経営農業は、燃油や用いる資材の製造エネルギー消費、さらにはグローバルな農産物運輸にかかるエネルギー消費が膨大で、エネルギー収支のマイナスがとても大きい。家族農業が「人力重視」「地域資源活用」「地産地消型」で自給圏を担っているのと対照的なのだ。気候危機への対応、食料安全保障や飢餓対策にとって、家族農業が優越なのは明らかである。

 NHKスペシャル「食の防衛線、第1回主食コメ・忍び寄る危機」(11月26日)  が、20年後の食料危機を鋭く警告していた。数千万円の負債を抱えて倒産した20haの稲作法人は、米価の低迷に対して肥料代や燃油などのコスト上昇で負債が膨らむばかりだったという。米どころ秋田県、担い手が高齢化して稲作から撤退が相つぎ、コメの供給力が急激に縮小する様を映し出した。担い手が激減するのだ。ごく近い将来、コメの供給が危機に陥ると告発する番組だった。

 ところが肝心の農水省幹部は、番組内で「まだまだ規模拡大で合理化は可能。農業者が30万人に減っても食料確保は可能と考えている」と胸をそらしてうそぶく。人に投資しようとせず、世界の趨勢を無視し、未来人のくらしに無責任な政府の野放図な姿勢を如実に物語っていた。

 10月末時点で、2023年の世界の気温は産業革命前に比べて1.4℃高かった。12万5千年前の最終間氷期以来の高気温だったという。大規模農業は温暖化を促す要因でもある。食料安全保障対策と併せ、「大規模農業」「もうかる農業」などというまやかしの農業政策にしがみつくわが国政府の指導を排し、未来人のためのまっとうな対案が必要である。

 新・家族経営農業者100万人育成計画を急ぎ起ち上げなくてはならない。

家族農業の10年とは - 家族農林漁業プラットフォーム・ジャパン(FFPJ)