環境問題と農業(1) 農業は環境に何をしたのか(その三)

 有機性廃棄物や牛のゲップ、水田からはメタンガス(CH4)が発生する。世界的には大気中のメタン量が増加している。メタンはCO2の25倍の温室効果があるが、廃棄物からの発生減少で日本のメタン発生量は減ってきている。農業からの発生量が横ばいであるため、牛の餌の工夫や水田の管理法改善などで発生量を減らす試みがある。

 例えばこうだ。柿渋のタンニンが牛のゲップを減らす効果があると確認され、干し柿の皮を加工して牛エサに混ぜる研究があるという。こうした地道な取り組みに期待がかかる。50年前、牛のゲップがこんな風に注目を浴びるなど、畜産農家は思いもしなかったことだろう。

 世界的にメタンが増えている背景の一つに、牛肉消費の激増があって牛の飼育数増加のことがある。需要に応えようとアフリカなどで牛の放牧が増えると、野草が減って砂漠化の要因にもなる。人類の胃袋の欲求はとどまることを知らない。

 いや、とどまって考えようという若者たちがいる。ヴィーガンと呼ばれる人たちで、日本語では「完全菜食主義者」だ。牛肉をはじめ、豚肉、鶏肉の肉類、卵、牛乳、魚介類、はちみつ、ゼラチンなどの動物性の食品を避け、植物性の食品しか口にしない生活をする。動物皮革のカバンや靴も使わないなど、徹底している。スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさんが有名だ。家畜のための飼料畑を「人の食料のための生産に使うべきだ」という主張でもある。

 こうした必死の思いで行動する若者は、自分たちの未来にかかる環境悪化の暗雲を払いのけたいのだ。私もそうだが、彼らの前世代、前々世代の無自覚と責任が鋭く追及されている。農業が犯してきた罪も、われわれはしっかり自覚しなくてはならない。日本の農家、農業指導層はその自覚がとても薄いように思えてならない。

 

 日本の畜産農家は今、経営の危機にあえいでいる。飼料と燃油、電気料金の高騰で、コストが異常に膨らんだためだ。畜産農家の離農を防ぎたいと政府や自治体からの助成もあるが、不十分だ。現状の畜産農家のくらしは守りたいが、それ以上に畜産食品の消費を煽る日本社会の風潮に危機感を覚える。輸入畜産物は増加の一途だ。

 のん気すぎやしないか。農家数に対して非農家市民の数のアンバランスが、日本人の“のん気”の元凶だと思う。農業と食システムが抱える重大問題を主要な政治課題にし、マスコミももっと意識的に報道すべきだ。