環境問題と農業(1) 農業は環境に何をしたのか(その二)

 気候危機と農業の関りについて考えてみよう。

 まず何をおいても、私たち日本人が責任を感じなくてはならないことがある。大量の食料輸入に使われる化石燃料のことだ。食料輸入量✖輸送距離をフードマイレージといい、環境負荷の大きさを表す指標の一つである。日本は8400億トンキロメートル(2016)で、断トツの世界一である。第2位韓国の2.5倍、3位アメリカの3倍に近い。日本人は、ただ食べているだけで大量の温室効果ガスを排出していることを、どれだけ自覚しているだろうか。

フードマイレージ、日本は断トツの世界一

 同様のことは家畜飼料の大量輸入にもいえるし、木材輸入のそれ(ウッドマイルズ)もそうだ。農林業自給率をできるだけ速やかに高めることを、世界中から強く求められている。

 農業もCO2を排出している。化成肥料は原料採掘から輸送、製造の過程でCO2を排出する。化成肥料の多投入が地下水と河川、さらに海の汚染につながり、水圏の生物多様性を損なった。水中の富栄養化をもたらし、微生物増殖で酸素不足になる“貧酸素水塊”を増やすとN2O(亜酸化窒素)を発生させる。N2Oの温室効果はCO2の300倍。化成肥料の罪は重い。

 農水省は化成肥料の施用量を減らしてきたと胸を張るが、国内有機物資源利用技術についての指導はいまだ不十分だ。有機農業の発展は現場にほぼ任せきりで、公的な技術指導者はほとんどいない。日本の農業政策の穴になっている(有機農家を育てる(5))。

 農業機械や温室栽培で化石燃料が使われ、トラクターで耕し過ぎると土壌内に蓄積された有機物の分解が進んでCO2が出る。土に蓄えられた炭素(1兆5000億トン)は地上生物全体の炭素量(4500億トン)の3倍以上あるが、農業生産によって減少しているという。反省から、海外では不耕起栽培が拡大している。

 温室効果ガスの排出は大規模法人経営がより多く、小規模家族経営からは少ないという。大規模農業ほどエネルギー収支がマイナスになるのだ。いわゆる「もうかる農業=規模拡大、法人化」の問題点だと認識すべきだ。国連の「家族農業の10年(2019~2028)」プロジェクトの主旨にも関連する。

 

 さまざまな食品が店頭に並ぶ中、原材料表示に「植物油脂」がある。東南アジアから大量に輸入されるパインオイル(ヤシ油)が使われている。東南アジア諸国は、日本がヤシ油を買うからと、次々と密林を焼いてヤシ農園に変えた。オランウータンの棲息を脅かし、CO2吸収林を大規模に減らし、樹木を失った泥炭地からはN2Oが大発生するという。日本人はこうした事実をきちんと知らないといけない。気候危機と食用油の自給という農業課題が密接につながるのだ。