有機農家を育てる(8) 家族農業のすすめ(その二)

 家族農業は「労働力の過半を家族労働力でまかなう農林漁業」(国連の定義) のことで2ha未満が85%、小規模農林漁業ともいわれる。わが国の家族農業経営の規模もほぼ同程度。水田稲作専業農家や、北海道の家族経営畑作や酪農などはこれよりやや大きいが。

 家族農林漁業プラットフォーム・ジャパン (FFPJ) は「これまで、先進国・途上国を問わず、小規模・家族農業の役割は過小評価され、十分な政策的支援が行われてきませんでした。『時代遅れ』『非効率』『儲からない』と評価され、政策的に支援すべきは『効率的』で『儲かる』『近代的企業農業』とされてきましたが、ここにきて農業の効率性を測る尺度自体が変化しています」と説明する。

 「農業の効率性は、労働生産性のみで測れるものではありません。土地生産性は大規模経営よりも小規模経営で高いことが知られています。また今、重要視されているのがエネルギー効率性です。化石燃料等の農場外部の資源への依存度が低い小規模・家族農業の隠れた効率性が注目されているのです」

 FAO (国連食糧農業機関) 事務局長は2013年、「家族農業以外に持続可能な食料生産のパラダイム (規範的な考え方) に近い存在はない」と言った。日本は「家族農業の10年」提案国の一員だった。政策的には家族農業を柱にすえて支援するのがすじなのに、いまだに「大規模企業農業」を推進する姿勢は大いなる矛盾である。それはなぜか。政権の自由主義路線、財界への思惑がバックボーンにあって、そこから思想的に転換できないからである。

 

 農政の最重要課題は「農業者減少への対策」でなければならないのだが、農水省幹部の言によれば、政府はもはやこの課題を投げ捨てたのだ。このことは反論する側、農民団体や野党の対案においても具体性が不十分だ。農民を育てる計画を誰もどこも具体的に提案しようとしない。分かる人がいなくなったのか。

 日本の食料安全保障において、肝心なのは農漁民の数。環境対策についても同じ。減らさず増やすべきは経営体の数でもあるが、その認識では不十分。地域社会の担い手であり、技術技能を持った「農漁民の人数」こそが必要なのだ。農業予算の4倍増、5倍増が喫緊の課題だと前に書いたが、その中心的なテーマは人への投資であるべきだ。

 農業が行っているのは経済活動だけではない。食の供給のほかに、農村社会を維持し、環境管理を無報酬で担ってきた歴史を顧みるべきだ。人無くして地方は守れない。例えば獣害の多発は、里山を適切に手入れできなくなったことが大きな要因。里山を管理してきたのは誰か。農山村の「家族農家たち」である。

人数はまだまだ少ないが、力強く育つ若い農業者たちに期待がかかる