環境問題と農業(1) 農業は環境に何をしたのか(その九)

 もう一つ、農業関係者がすぐにでも対策しなければならない課題がある。貴重な有機物資源をうまく活用できないで無為に廃棄し、しかもその廃棄過程で大量のCO2を排出してしまっていることだ。

 30年近い有機農業のかかわりで、とても有効な有機肥料素材が身近にたくさんあることを知った。ところが、慣行農業で使われないために大量に廃棄され、化石燃料を使って焼却処分されているものがある。鶏糞生ゴミである。

 日本人の卵好きはよく知られている。卵は物価の優等生といわれて安く供給されてきた。その背景に数万~数十万羽飼養の大規模養鶏があり、養鶏場からは日々大量の鶏糞が排出される。

 この鶏糞、乾燥・発酵工程を経て軽量化され、その先は大部分が廃棄物処理業者の手に渡って焼却処分されるという。ブロイラー養鶏の鶏糞についても同じだが、有機肥料としてはごくわずかしか流通していない。鶏糞の一部は養鶏場の暖房用燃料として利用されるというが、鶏糞単体では燃えないので化石燃料に混ぜられるのだろう。

 乾燥または発酵鶏糞の含有成分は、窒素3~4%、リン酸3~5%、カリウム3%前後、カルシウム4~9%と、有機肥料としてとても効果的な資材である。にもかかわらずこれまで農業利用がとても少なかった。廃棄過程で温室効果ガスを排出していることを反省し、積極利用に転換すべきである。

 もう一つが生ゴミである。学校、病院、福祉施設、宿泊施設などの給食の現場で発生する生ゴミは、近年は「生ゴミ発酵処理機」で軽量粉末化できる。こうした生ゴミ処理物も、理想的な有機肥料素材である。各含有成分は鶏糞よりやや少なめで、米ぬかの成分含量に近い。魚の骨や卵の殻など、ミネラル成分も多く含まれる。ところがやはり、鶏糞同様にほとんどが焼却処分されているという。農業利用は鶏糞以上に少ない。

 生ゴミ処理機をうまく使いこなせない給食施設もあって、水分たっぷりの生ゴミをそのまま廃棄物処理業者に手渡す例が多くなったとも聞く。水気を含んだ生ゴミの焼却には、生ゴミ1トンあたり760リットルの重油が必要で、燃やすと2,050㎏のCO2を発生させるという。各給食施設で日々発生する生ゴミの重量に重油単価を掛け算して経費試算してみることをお薦めする。発生CO2量も計算して知る必要がある。生ゴミ処理機を使いこなし、処理物をぜひとも地域の農業で利活用できる体制が求められる。農業行政の責任の一つである。

生ゴミ発酵処理機:4分の1に減容、軽量化、粉末化される

 家庭排出の生ゴミは、3~40年前から市民の手で収集し堆肥化する熱心な活動が全国にあったが、いずれも参加市民の高齢化で活動が途絶えてしまった。私も一時この活動に関わっていたことがあるので、残念でならない。