有機農業とその技術(3) 土づくり(その四、植物質堆肥)

 日本土壌協会という団体がある。土壌の健全化や環境保全型農業の推進などを目的にしている専門家集団で、土壌医の認定も活動の一つだ。この土壌協会が堆肥の優劣を確認する方法として「堆肥に直接コマツナの種を蒔いてみよう」と言っている。順調に発芽する堆肥が「いい堆肥」だというのだ。

 私はかつて、肉牛飼育の研究を行っている団体から「完熟牛糞堆肥です。お試しにどうぞ」と1トンほどを分けてもらったことがある。農場の隅に積んだまま数年放置してしまったのだが、何年経っても「草が生えなかった」。本来の堆肥は熟すと黒くなり、しっとりと湿っているものだが、この牛糞堆肥は茶褐色のままサラサラしており、ミミズも入り込まなかった。

 直接植物が生えることなく、ミミズにも嫌われるものが良質の堆肥であるはずがない。全国の牛糞堆肥すべてがそうだとは言わないが、えてしてそういう問題を孕むのが家畜糞堆肥である。

 自前で作る植物質堆肥には、そういう心配はない。腐熟過程で自然に雑草が生え、いつの間にかミミズが大量に増殖している。堆肥をそのまま苗床の土として使うことができ、野菜は順調に発芽する。堆肥材料に草を使う場合はその種子が混じるので、苗床で草取りが必要になることが欠点といえば欠点ではあるが。

 野菜残さ、刈り草、生ゴミなどを野外に積み込んで数回の切り返しを行うと、夏場なら3~6か月、冬場を経て作る場合でも1年以内に黒く腐熟した良質の堆肥ができる。ポイントは積み込む量である。できるだけ大きな山にすることが肝要である。量が少ないと乾きやすくて腐熟が進まない。大山の嵩(かさ)と重さが要点だ。

 こうして作った堆肥は窒素含量がおおよそ1%くらいで、どこで誰が作ってもその窒素含量はほぼ同じになる。EC(電気伝導度)で0.5前後になり安定する。完熟腐葉土のECもだいたい同じである。EC測定は含有窒素量の推定に役立つ。1万円くらいで簡易測定機が手に入るので、検査機関に頼まなくても農家が自分で土のおおよその栄養状態を確認できる。

 ちなみに、野菜苗などを育てる苗床の土(育苗用土)のECは、種まき床で0.5~1.0、鉢土で1.0~1.2が目安である。腐葉土や植物質堆肥を鉢土に使う場合はボカシ肥料などを少量混ぜると条件を満たせる。(苗床の土の作り方、ボカシ肥料の作り方は別項で紹介する)

 植物質堆肥の作り方は、下の写真を参考にしていただこう。堆肥場を準備して作業をルーチン化すれば、だれでも簡単にできる。