環境問題と農業(1) 農業は環境に何をしたのか(その七)

 農業生産が直接的に関わる4つ目の環境問題は何か。

 2015年、国連食糧農業機関(FAO)は「すでに世界の土壌資源の33%は劣化していて、新たな取り組みを始めない限り2050年には一人当たりの耕作可能地は、1960年水準の4分の1になる」と警告した。このままでは土壌劣化がさらに進み、世界の農地の大半が病むことになるという。深刻な状況に対策すべく、国連は「国際土壌の10年(2015~2024)」プロジェクトを始動させたが、来年はもはやその最終年になる。

 土壌劣化 はなぜ起こったか。その要因と劣化の様相は以下である。

酸性雨、乱開発による「森林の多様な機能の低下」

・頻繁な耕耘、除草剤による「土壌侵食の拡大、表土喪失」

・大型機械の踏圧、化成肥料による「土壌硬化」

・化成肥料、灌漑農業の継続による農地の「塩化、アルカリ化」

 結果として①土壌貯留炭素の減少(CO2排出)、②土壌生態系の劣化、③生産性の低下につながり、人口増に対応すべき食料増産がきわめて困難になった。

 農地の扱い方の間違いは、「投入の増加によって産出の拡大を図る」という工業技術論をそのまま農業生産に適用し、その農法を100年近くも無反省に続けたことである。トラクター耕耘の常態化、化成肥料依存、除草剤の連用、寡雨地帯での灌漑農業など、まさに工業技術由来の農業技術が主流となって、人の目も手足も「生きた土」から遠ざかってしまったことが真の要因である。

 土壌劣化は、結果的に化成肥料のますますの多投入を招いて窒素・リン汚染につながった。作物生育の不調を招いて化学合成農薬の使用量を増やした。土壌劣化はさまざまな環境問題と根源的なところでつながっている。

国際土壌の10年(2015ー2024)

 土とは何か、かつての農民は生物多様性に満ちたダイナミックな存在であることを知っていた。そこに立つ人の目の高さ、しゃがんで作業する人の手の位置からの理解だった。大型でキャビン付きのトラクターやコンバインの運転席から見下ろすようになって、土の理解を損なったのだ。時には地下足袋姿で鍬を持ち、手作業しながら土と対話する機会を持つといい。土が語りかけてくる。尊重すべき「生きた」存在だと分かるはずだ。

 こうした土壌劣化は日本の農地でも進んでいるし、その前に食料や家畜飼料、木材の大量輸入が輸出国の土壌劣化を促していることを国民は知らなくてはならない。国は2015年からの9年間、土壌劣化対策を何かしてきたか。為政者はもちろん、知らしむべきマスコミの責任も重い。

 さて土壌のこと、

 今や、皮肉にも「農業者」より家庭菜園者の方が土に近いかもしれない。