環境問題と農業(2) 有機農業に転換する意義(その二)

 有機農業に換えれば生物種の絶滅は防げるのか。

この疑問にも答えなければならないが、“農薬を使わなければ農地内外の生きものが死ぬことはない” というような単純な問題ではない。

 まず一つ目として、土の生命力 について考えてみよう。

 数十年前の研究成果によると、畑地の土壌内には10aあたり約700㎏の生物がいるという。有機栽培土壌ではなく化成肥料、農薬を使う畑の土の中にだ。700㎏の大半は微生物で、動物は5%くらい。畑の作物根の大部分が接する土の深さを20cmくらいとするとその土の重量は約300トン。重量比だと生物はその0.2%ちょっとだが、軽トラック2台分くらいの生物が土の中にいると考えると、土の生命力が想像できる。

 まずは化成肥料の影響。直接的な弊害というより、無機質肥料の施用だけで有機物による「土づくり」を怠れば土壌生物の生息量は抑制される。土壌生物への栄養供給が途絶えるし、生息環境の悪化があるからだ。一方、化学合成農薬(殺菌剤、殺虫剤、除草剤)は直接的に土壌生物に大きな負の影響を及ぼす。化成肥料を堆肥など有機肥料に代え、農薬を使わない有機栽培に転換すれば土壌生物は生息量、種の多様性ともに大きくなることが証明されている。

 2018年、国立研究開発法人「農研機構」が、有機農業研究プロジェクトの成果を分かりやすく紹介した「有機農業の栽培マニュアル」という冊子を出した。成果として「有機栽培のほ場では土壌動物が多くなります」「微生物量(も)、有機栽培で多くなります」と説明している。

 また、稲の育苗で、(殺菌していない堆肥などで作られている)有機栽培育苗土では微生物多様性が高くなり、抗菌活性を持つ微生物や植物(稲など)の(病害)抵抗性を誘導する微生物が存在するなど、なぜ農薬を使わなくても栽培できるかの “謎の解明”につながる成果を紹介している。

有機育苗の土には、多様で病害抑制にもはたらく微生物集団がいる

 土の生命力の指標としては、ミミズのはたらきがとても重要だ。ミミズがたくさんいるかどうかは、田畑で作業している農家には日常的に知ることができる。ミミズは土の物理性、化学性、生物性を最適にし、作物の病害虫を減らすはたらきも大きい。むしろ土の「土らしい性質」はミミズが作っているといってもいいくらいだ。(詳細は別項で紹介します)

 福島大学の金子信博先生は土壌生物の専門家だが「有機栽培の畑なら必ずミミズがたくさんいる、とは限らない」と言う。有機栽培の中にも多種多様な農法があり、すべてが土壌生物を豊かにできる訳ではないのだ。農研機構の研究も、ごく一部を解明したにすぎない。