環境問題と農業(2) 有機農業に転換する意義(その一)

 化成肥料をやめれば環境負荷は減るのか。有機肥料だと温室効果ガスは減るのか、窒素とリンの投入量は減らせるのか。きっと、そんな疑問を持つ人は多いだろう。一つひとつ確認してみよう。

 化成肥料はその原料となる鉱物の採掘、海を越えた輸送、工場での肥料製造の過程で大量のCO2を排出する。過剰な施用で漏出した窒素が水圏に至るとN2Oの排出につながることも前に述べた。農水省の試算によると、有機農業に転換することで0.93t/ha/年(CO2換算)の温室効果ガス排出を減らせるという。

 30年くらい前、私が有機農業技術の研究を始めたばかりのころ、あちこちの有機農家を訪ね回って新鮮な驚きを感じていた。その驚きの一つが施肥量の少なさだった。実際の投入量は10aあたり堆肥数トンであったり、ボカシ肥料数百㎏だったりだが、その含有成分量(窒素やリン)を目算すると慣行農家のそれの半分以下、農家によっては3分の1程度の投入量だった。

 すなわち、化成肥料と比べて有機肥料の施肥効率がけた違いに高いことを知ったのだ。投入成分量が少なくても、有機農家の作物生育、収量は慣行農家と遜色なかった。有機農家によっては収量が慣行農家の3分の2くらいのことがある。しかし施肥量を聞くとほとんど無施肥に近い少肥だったりする。収穫物に含まれるタンパク含量から逆算すると、その施肥効率が100%を超える例もある。

 その秘密はこうだ。無農薬と有機物投入の組み合わせでは、農地土壌内の生態系が豊かになる。大気中の窒素ガスをアンモニウムに変換する「窒素固定微生物」も増殖してそのはたらきを高めるので、農地内に窒素栄養が増えるのだ。田んぼでも畑でも、窒素投入量を減らせることが有機農業の神髄の一つなのだ。

 リンはどうか。やはり投入量を減らせる。土壌中のリンの大半はアルミニウムや鉄と化合して水に解けない形で存在している。そもそも熔リンとか過リン酸石灰などの肥料を土に入れても、その90%くらいは即アルミニウムなどと結合して不溶性になり、作物は使えなくなる。結果的に、長年投入されたリン酸肥料は農地土壌に大量に蓄積されている。堆肥など有機肥料を投入すると土壌中で有機酸を生成させる。蓄積された不溶性のリンを、この有機酸が少しずつ溶かし出すのでリンの肥効が高まるのだ。堆肥中のリンも効率よく使われる。窒素もリンも、有機施肥による環境流出・汚染はきわめて少ないに違いない。

 

窒素固定菌のはたらき (高橋英一1982、Burns & Hardy1974 から引用)
この表中の数字は化成肥料を使う慣行栽培での窒素固定量有機栽培に変えれば数値はさらに大きくなる
窒素固定菌はシロアリやカブトムシの幼虫など、木くずや落ち葉を食べる虫のお腹にもいる。腐葉土の中にカブトムシの幼虫がいれば、腐葉土中には窒素栄養が溜まっている。

 

 作物栄養の供給方法は、化成肥料をやめて早急に有機肥料に大転換しなくてはならない。日本には、有機肥料として使える有機物が無尽蔵にある。農業指導機関には、その利用技術を整えて普及する責任がある。「有機農業を指導できる人が足りない現状」を早急に打開すべきだ。