有機農業とその技術(6) 有機農法の多様性(その四、低投入持続的農業)

 有機農業の別名は「低投入持続的農業」である。有機農業の「有機」は、さまざまな生命との調和と共生を意味し、農家が採る手法、農の生産とくらしの過程を表している。個々の農の現場を認識する際の表現といってもよい。有機農家は自らの農を「有機農業」と呼ばれることには特に異論ないだろう。

 低投入持続的農業は、有機農業の為す先、全人類の目的となるべきところを表し、第三者的な表現である。個々の農家は自分の農をそう呼ばれたら違和感を持つかもしれない。そんな大層なものではありません、自分の満足のためにやっているだけです、とかなんとか。だが、有機農家らの実践は、そのベクトルの先が確実に地球を救うことにつながっている。その程度の差はさまざまあれど。

 低投入持続的農業のベクトルの強さは、その手法において、一覧表の左側にいくほどより大きい。これは、一般的な認識における生産性とは一線を画す「意義」である。すなわち、これまでの農業一般にあった工業技術論的な生産性を追求する姿勢とは対極にある。一本やりの生産性追求が環境問題に直結したという反省に立つなら、その対極にある「意義」に耳を貸す必要がある。

低投入持続的農業を課題にするには、どのような技術を普遍化すればよいのか

 炭素循環農法の呼び名で活動する農家集団がある。窒素成分濃度の高い有機肥料は使わず、繊維質主体で炭素率の高い有機物を表層に浅く混和し、土壌内で必要最小限の窒素栄養を自然発生させて作物を養おうとする農法である。過少窒素が作物の健全な生育をもたらす、という思想による。これはほぼ真理である。近年の最新研究もそれを証明しつつある。

 そもそも、繊維質主体の炭素が窒素栄養を呼び込む、その自然原理をあまねく作物生産に応用してきたのが中心柱たる有機農法であった。有機農業=炭素循環農法といってもよかったのだが、そうでもない有機農業が加わった (右端) ために、あえて別の柱立てで炭素循環農法が存在しているともいえる。前向きに受け止めてよい流れであろう。

 この農法で用いる有機物は、主に木質有機物で、生木を粉砕したもの (タンパク質、酵素を含む) 、キノコの廃菌床などである。あえて浅く表層施用するのは、好気性の菌類に勢いよく分解してもらうためである。浅い耕うん法は土中生物の攪乱程度も少なく、持続的農法としての効果も大きい。想像のごとく生産性は決して高くないが、対環境面での意義は中心柱的有機農法よりは大きいと思う。学ぶべき点である。

 表の最左翼にある自然農とその右の自然農法には、未来の農の理想に近づくためのヒントがたくさんある。抱える問題点とともに、次回に紹介しよう。