環境問題と農業(3) 環境再生型有機農業(その三)

 不耕起栽培は、2003年から露地ナスでも試みている。

 ボカシ施肥し、ロータリー耕耘後に畝立て黒マルチした一般的な有機栽培(対照区)との比較で、鍬溝にボカシ施肥して埋め戻し、藁マルチした不耕起栽培(部分耕耘、あるいは半不耕起)を、5年間連作で試験した。施肥量の不足で年々収量が低下したが、不耕起のメリットがいくつか明らかになった。

・根こぶセンチュウ害回避の可能性がある(ミミズの増殖によるか)

・半身いちょう病の発症を抑制できる可能性がある

・収穫期間が伸び、生育の持続性を向上させる

・省力性が顕著である

 栽培する畑の条件によるが、露地ナスでも不耕起栽培のメリットは充分あると結論したのだった。だが、2021年から始めた自給有機農園でも一昨年と昨年、ナスの不耕起栽培を試みたが成功しなかった。この畑全体に半身いちょう病菌が蔓延していて、耕して植えたナスも不耕起栽培ナスも育たなかった。半身いちょう病発症抑制効果は、植える畑に依ることが分かった。生物の世界に “必ず” はやはりありえなかった。こうした土壌病害対策には、接ぎ木苗の利用が必要になる。

不耕起栽培ナス4作目の定植苗。前年、前々年の切り株が見える。奥に見えるのはエン麦、アブラムシ対策のバンカープランツとして有効。出穂時に刈って敷き藁補給に使う

不耕起栽培ナス4年目(2006)

不耕起栽培ダイコン、収穫したダイコンの肌はきれいだった



 トマト同様、露地ナス不耕起栽培の経験知は、今後の有機農業技術展開の方向を考える上で大きなヒントになる。土をどう扱うべきかの課題においては、すべての作物栽培で、①耕しすぎないこと、②土を露出させないこと、の2点が必須の条件になるのだ。

 現代農業10月号の特集記事で、福島大学の金子信博先生が、不耕起栽培の「よい効果」を次の3点にまとめている。

 ▶物理性の改善:耕さないことでトラクタの走行回数が減るため、耕盤層ができにくくなる。さらに、排水性や保水性が高まる。▶化学性の改善:耕さないことで、土壌有機物の分解が抑制され、土壌有機物の蓄積が促進される。土壌有機物はおおまかには農地の肥沃度の指標である。また、硝酸態チッソの溶脱が減少する。▶生物性の改善:上記の変化を引き起こしているのは土壌生物の多様性や生息数の増加によるものである。耕すことは土壌微生物にとっては予期しないストレスであり、有機栽培であっても耕すことで微生物や土壌動物の生息数を大きく減少させている。…… 私の23年間の経験と一致する。

 日本でも不耕起有機栽培は、老いも若きも農家の間で盛んに試行されるようになった。実に喜ばしい。彼らの経験の積み重ねが次の時代を方向付けしてくれるだろう。望むべくは農業指導機関の人々が、こうした試みに伴走し、共に試行錯誤を重ねる姿勢である。「マニアック、もうからない」などと蔑視する指導職員は願い下げだ。未来を見ようではないか。