環境問題と農業(1) 農業は環境に何をしたのか(その八)

 除草剤の、環境生物への影響がとても気にかかる。

 今、畑地や住宅周辺で使う除草剤が、市民が日用品を買う町なかのD.I.Y店やドラッグストアで難なく買える。テレビでも「根こそぎ枯れる」などと消費を煽り、ネットで誰でもいつでも買えるこの風潮がとても気がかりだが、危惧する声をあまり聞かない。

 関東平野の農村部では、田畑の周辺は高齢農家でも草刈りの努力を続けていて、除草剤使用はまださほど目立たない。しかし、北陸、中部地方などの中山間地では、緑なのは作物だけで、夏季でも畦畔や路肩が茶一色の光景が目立つようになった。傾斜のきついのり面など、草刈り作業が難しい場所が多いからだろうが、農業人口の減少と高齢化が除草剤使用に拍車をかけているように思える。

 農地の周辺に生える草を食草にする昆虫はとても多いと聞く。農家が定期的に草刈りすることで生える草種が固定され、草丈も低く維持される。そうした特異な環境に生息し繁殖地とする昆虫種にとっては、除草剤は種としての生命線を絶たれるに等しい。長く人の農耕社会と共生してきた生き物が、人の行為の変化で死に絶えるのだ。

 草が無くなると、地中の生き物も生きられなくなる。ミミズはいなくなり、微生物相も貧弱になる。それは、振りまかれた除草剤成分の分解、解毒化も進まなくなることを意味する。地中残留は増える一方だろう。

 草がないと田畑ののり面が崩れやすくなる。大雨で崩壊する被害も増えるとともに、未分解の除草剤成分が流れだして河川に至り、水圏の行き物にも影響を及ぼすにちがいない。中山間地は上流域でもある。いずれ下流域の人社会にもダメージが及ぶのではないか。除草剤成分の水中残留が懸念される。

 除草剤使用に抵抗感がない日本の農業のあり方、人々の無関心に極大の懸念を表明したい。除草剤成分の農産食品への浸透・残留も気になるが、それよりも環境生物への悪影響が多大であることを訴えたい。生き物への影響は、いずれ近い将来、われわれ人社会に大きなしっぺ返しとなって現れるだろう。

 そもそも除草剤は農協が売っている。その悪影響を知らないのかとあきれてしまう。昆虫の生息が減ると、食物連鎖のピラミッドが崩れる。その影響の大きさは計り知れないのだが、人々は無自覚のようである。

 別の視点として、農作業労働の対価が低すぎる点も、草刈りを忌避して除草剤に依存する理由の一つだと思う。環境問題の無自覚と併行する重大な課題だ。

 除草剤成分「グリホサート」の人体への毒性、残留の多い輸入コムギ、ダイズ、トウモロコシ等の問題もまた重大で話題になることが多い。一方で環境生物への影響を指摘する声の少ないことが、私には心配なのだ。

有機栽培の畑、うね間に草を残して生き物と共生する