有機農家を育てる(9) エッセンシャル・ワーク(その一)

 新・農業人フェアというマッチングイベントに行ってきた。農業に関わる求人者と農業の世界で働きたい求職者との「出会いの場」である。求人側は、学生を募集する農学校、スタッフ募集の農業法人、研修者受入れ農家集団や市町村などである。求職者は、農業法人等に就職したい人と、独立農家になりたい人に大別されるが、そういう区別さえ知らずに情報を求めて参加する人も多い。農への純粋なあこがれが動機の「第一歩」なのだ。全国規模のフェアが東京や大阪などであるほか、道府県ごとのフェアがある。

 数年ぶりに、茨城県内版のフェアで研修生を求めてブースを借りた。笠間・城里地域有機農業推進協議会として、有機稲作農家と二人で参加したのだが、我がブースに来て話ができたのは26歳の青年一人だけだった。

 農学校や農業法人、地域ごとの「就農支援協議会」、農協の「研修生受入れ農場」など47のブースに対し、来場者は42人にとどまった。「えっ、こんなに少ないの……」というのが実感だった。数年前は県内版でも100名前後の来場者がいて、数名以上の人と対話ができたのだ。主催者に聞くと、来場者は年々減少しているという。

 これは危機である。国民全体にとっての危機と感じた。農業者の減少に歯止めをかけるために、新規参入の農業者を一人でも多く育てる必要があり、こうしたマッチングの機会はとても重要なのだ。そのフェアに来る人が少なくなったというのは、国全体の人手不足が背景にあるからだろうか。

 エッセンシャル・ワーク (必要不可欠の仕事) の分野で軒並み「働き手不足」が深刻化している。医療や福祉、物流、学校教育や保育、電気ガス水道やゴミ収集などインフラに携わる仕事、そして食料の生産と供給、農家や漁師である。

 進む高齢化と少子化で人口のピラミッド構造がゆがんでいるばかりでなく、経済成長一点張りの国の政策が、社会構造をゆがめてしまったのではないか。国費の使い方に問題があるのだ。

 都道府県など地方の施策にも問題がありそうである。農業生産額を維持できればよいとして、農村部の社会インフラや環境保全、そして農家数の確保に公共投資しない姿勢は、未来社会を危うくする。

 持続可能な社会の構築が21世紀の最大の課題である。エッセンシャル・ワークへの投資配分を厚くすることが、その答えの一つである。働き手の所得をより高水準にするための施策がすぐにでも必要だ。積極的に農家を育てようとする姿勢を持つ自治体、そういう農村に人が集まるだろう。

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