自然共生の農と食を未来人の手に(2) 新・農家100万戸育成計画(その三、研修5道)

 農家が減るのは、高齢農家に家業後継者がなくて離農が増えるからだ。農家の後継ぎが他産業に就職すれば、農家はいずれ田畑を耕作できなくなる。周辺の若手農家や農業法人集落営農組合などに農地を預けて耕作してもらうことになるのだが、預かる農家の経営面積にも、活動的な農家数にも限界がある。山間で道路事情が悪い、日当たりが悪い、住宅地に囲まれた狭い田畑など、不便で使いにくい農地はどんどん見捨てられていく。

 過去60年間で176万haの農地が放棄された。茨城県面積の約3倍である。

 そんな農の後退状況を押しとどめ、農家数を維持しようとする取り組みは以前からある。農家生まれでない人に農家になってもらう「新規参入就農者を育てる」政策で、転職して農家になろうとする人を金銭的に支援する制度もある。この制度を使って農家を育てる活動をしている人々、研修業務に携わる人々がいる。

 農家になるには、大きく3つの課題をクリアしなければならない。農産物生産の技術を学ぶこと、農地を確保すること、起業資金を準備すること。入口の技術習得が最初で最大の課題になる。「どこで誰から教わるか」だ。農地確保も、その「どこで誰から」によって道が開ける場合が多い。

 新たな農家育成の最大のカギは、技術と経営を指導し支援する人とその学びの場所 (研修場所) がどれだけたくさん存在するかであり、その指導と支援の質が問われる。3番目の資金については、就農準備資金という助成金や無利子の融資制度、市町村の独自助成などがあるが、支給支援を得るには就農後の営農が安定するかどうか厳しく審査される。研修の実効性が問われるのだ。

 「どこで誰から」には、いくつかの道筋がある。主な道筋は5つ。①指導力のある専業農家が研修生を受け入れて技術を教え近隣に農地を見つけて就農まで支援する、②地域の農家集団による協議会や農協が研修機関となって研修生を受け入れ、就農まで導く、③農業法人がスタッフとして雇用し、独立したい人にのれん分けして就農させる、④道府県農業大学校 (農業アカデミー、農業短大) が働きながら学べる研修コースを運営して支援する、⑤民間の農学校が社会人向けの講座を開設して実践的な指導を行う、の5つである。

元職の鯉淵学園農業栄養専門学校で運営していた週末有機栽培研修事業。受講者には喜ばれたが、研修修了後の個別支援ができずに煩悶した。学校職員の限界である。週末だけの学びでは実技習得に限界があり、就農率は低かった。

 5つの農家育成機能にはそれぞれ固有の特徴があり、その効果にも差異がある。少ない投資で着実に農家を育てている事例がある一方で、大きな投資にもかかわらず、就農者育成率が期待値を大きく下回る事例もある。結局、いくつもの農家育成のしくみがあるにもかかわらず、農家は減る一方なのだ。

 その問題の源がどこにあるのか、何が課題なのか、次話で。