有機農家を育てる(3) 研修農場を起ち上げる(その二)

 57歳、そこそこの退職金を元手に始める農業。おそらく資金回収は無理だろうと思いつつそのことは妻にも言えない。12年後、結局貯金を使い果たして研修農場を閉じることになったが、成果には十分な満足感が残った。

 NPO法人あしたを拓く有機農業塾(研修農場あした有機農園)

 12年間の研修農場運営で知り合った人は数え切れないくらい多い。国の助成金を使って1年以上の研修を行った研修生は18組。うち1組は事情で就農を断念し、1名は農業法人就職となったが、16組は独立就農者になった。このほか、週末に行った「有機栽培実践講座」受講者(延べ約200名)の中からも数名の有機就農者があったので、20余組の独立就農に関われた。満足感の1である。

有機栽培実践講座、受講者の人たちと(2022春)

 12年間に、とても多くの就農相談者、有機栽培技術相談者、見学者、1日体験者、家庭園芸誌の取材、委託研修受講者などを受け入れた。総勢4,000名を超える。それぞれ微力でも、こうした多くの人々の有機農業理解に貢献できたかもしれないこと、満足感の2である。

 NPO運営の研修農場の試みは成功だったと思う。さまざまな人が関わってくれて、ダイナミックな人のつながりができた。就農者育成以外にもいくつかの成果があったことが、満足感の3だ。

① 卒塾者と既存の有機農業者で組織した共同販売グループの起ち上げ:生協などに共同で有機農産物を出荷する、いわば小さな専門農協ができた。

② 地域生産の有機農産物と国産無添加食品のオーガニック直売所の開業:「有機農家が作ったオーガニックの店」2019年12月開店、40余名の有機農家が出荷会員になっている。この店は、2023年4月にNPO友部コモンズに経営権を移譲し、続いている。

NPO効果として、自治体行政になにがしか有機農業理解が及んだこと

 

 もう一つ、秘めた思いがあった。それは、NPOによる農業経営の試みだった。今後も家族経営農業が主であることは間違いないが、家族間の経営継承だけに期待できない時代となれば、家族以外に継承できる営農のモデルとしてNPO運営という方法もあるのではないか。事業体の利益追求ではなく、スタッフの所得確保を主なねらいとする農業である。そして副次的な意味づけが「公共性」だ。農業は「儲ける」だけの仕事ではない。地域社会の維持、防災、道路や河川・用水路などのインフラ管理、自然環境の手入れなど、農家は手間賃を期待できない公共的な仕事のなんと多くを担っていることか。日本中にNPO農業を普及させてもいいのではないか、ずっと前からそんな風に思っていたのだ。

 ……(その三)につづく