有機農産物に付加価値はありません(2)

  「有機野菜はおいしい」という消費者の声がある。それは、慣行栽培の野菜と比べて味が優れるという評価なのだが、その評価は科学的に説明できるのだろうか。

 食品の質を科学する農学者らの研究結果は「差がある」、「明瞭な差はみられない」の2通りで、要は現時点では「はっきり言えない」ということらしい。そもそも「おいしさ」の感じ方は人それぞれの面があるから、科学者はその領域に踏み込みにくい。

 私はいわゆる研究畑の人間ではない。30年来の実践者・技術者としての私の意見は「有機野菜は味が濃くなる可能性がある」である。すべての有機野菜が必ずそうなると言えないが、慣行栽培と異なる積極的な「土づくり」と適期栽培の条件内では、体内成分濃度が高くなり、味も濃厚になる。それは高栄養価と高機能性成分を保証することにもつながる。長い経験と科学的な学びによる確信だ。  

 その要因は次の3点であると考えている。

有機物による土づくりで団粒構造が発達する。発達した団粒構造は保水性と排水性の両方を高める。すると植物の根は適度の吸水ストレスにさらされる。土づくりがうまくいった畑の有機野菜は、吸水力を強めようと浸透圧調整として体液の成分濃度を高める。

有機物による土づくりで、土壌内に恒常的に有機酸が生成する。酸は植物体表皮にとって刺激物であり、有害である。対抗措置として植物は体表皮を硬くし、生長に軽いブレーキがかかる。その過程で体液が濃くなる。

 この評価は、過去にトマトへの木酢液散布実験で確かめた。葉面散布でも根部への灌注でも果実糖度が高まった。影響を与えたのは酢酸である。酢酸が主成分の食酢でも、市販の酢酸液でも同じ結果だった。

有機物施用で、土壌内にはアミノ酸が生成する。植物根は直接または共生微生物を介してアミノ酸を吸収できる。低温や日射量不足など生長にとって不利な条件でも根から入るアミノ酸など低分子の有機栄養が体内生成の成分を補完することで、食味を濃厚にする(可能性がある)。

これは想像上の模式図です。団粒の正体はミミズ糞

 ただし、濃厚な味が「良い、美味い」とイコールかどうかは即断できない。食べる人にもよる。

 仮に有機野菜が慣行栽培野菜より味が良いなら「それは付加価値ではないか」という好意的な意見があるが、私は同意しない。それは(1)で書いたことと同じである。有機野菜が本来の野菜の味であり、慣行栽培野菜は化学肥料偏重と化学合成農薬によって変質させられてしまったのだ。

 考えてみてほしい。何度も頭からかけられたり根から吸わされたりする農薬(化学合成物質)に対して、生きている野菜が何らかの反応を示すのは当然ではないか。慣行栽培野菜が「まずい」のだ。