有機農業とその技術(3) 土づくり(その五、腐葉土と床土)

  「農と暮らしの技(2)肥土(苗床の土)」で、育苗用土のことに触れた。ここではもっと掘り下げて書いてみたい。

 育苗用土にもっとも一般的に使われたのが腐葉土である。材料は落葉広葉樹の落ち葉のほかに、西南日本では常緑広葉樹の落ち葉が使えるし、海辺では松葉も使える。落葉樹の落ち葉がやや早く腐熟し、常緑樹や松の葉は腐熟までに少し長期間を要する。しかし、いずれも最終的には十分使える腐葉土になる。

 雪国では落ち葉を使えないことがあると「肥土」のところに書いた。そこで、全国どこでも身近な有機物で育苗用土を作れないか、いろんな材料で用土作りを試してみた。結果、以下の材料は有用で充分使える。

 一つは稲ワラ。米ヌカを混ぜながら稲ワラを堆積させてワラ堆肥を作る。乾燥ワラを積んでも腐熟しないので、積みながら水をかける。あるいは雨にあてた濡れたワラを積むと、夏場であれば半年くらいで腐熟する。これをふるってそのまま用土にできるが、乾きやすいので赤土または田土を3分の1~半分量混ぜるとよい。ワラの腐熟過程で窒素固定菌が窒素栄養をもたらしてくれるが、野菜の苗には若干足りない。ボカシ肥料または発酵鶏糞(粉状)を少々混ぜるといい。

 落ち葉も稲ワラも手に入らない時は、雑草のメヒシバ(ハグサ)を刈り集めて使う方法がある。堆肥化、用土化は稲ワラと同じでよい。性質は稲ワラによく似ている。種子が混じらないようにするには、メヒシバがよく伸びる5月から7月末頃までの刈草を使う。土用を過ぎると種子をつけるようになる。期間中に3~4回刈り生乾きで集めて堆積し、秋まで数回切り返すと良質の腐葉土になる。

メヒシバ堆肥、堆積して3カ月

メヒシバ堆肥の内部、順調に腐熟が進んでいる、カナブンらしき幼虫が見える


 結論をいえば、ムギ類、野生の葦(ヨシ、アシ)などイネ科植物はいずれも腐葉土になるだろうということだ。

 腐葉土作りは、70代以上の農家ならおそらく誰もが作り方を知っていると思うのだが、若い農村人には継承されなくなってしまった。とある地方の県の試験場研究員(4~50代)が室内のコンクリートの上で腐葉土を作ろうとしていて驚いた。この研究員、週末は自家の稲作に従事する兼業農家だったのに・・・。

 腐葉土作りは、落ち葉を集める現場の林床に堆積させて作るのが本道である。その場の虫、微生物に作ってもらうのだ。持ち帰って作るにしても、必ず野外の土の上で作ること。雨に当たる場所で、虫と微生物、ミミズが自由に出入りすることが必須の条件なのだ。特にカブトムシなど甲虫が産卵してくれないと、順調に腐熟しない。そうしたごく常識的な知識が受け継がれない日本の農の現実を、関係者は深刻に受け止める必要がある。

 有機農業を志す若い就農者には、ぜひこうした技術を伝えていきたい。