有機農業とその技術(4) 技術の自給(その一)

 技術を金で買う、技術を第三者に委ね管理されている、現代農業の重大な欠陥がそこにあるのではないか。私がずっと抱いてきた懸念である。

 農業がもうからない商売であることは世界共通である。国や地域の経済発展レベルとは無関係で、資本主義経済においては農林水産業が産業間の搾取対象になっているのだ。だから、多くの資本主義国でも農業に多額の公費を投じて産業基盤を守っている。このことは『有機農家を育てる(6)農業予算の4倍増、5倍増が必要だ』で述べた。

 日本はその公費投入が少なすぎるから「農業では食えない」と離農が進み、食料自給率が下がり続けてきた。このことが日本農業の最大の問題なのだが、もう一つ、農業界自身が身に染めてしまった悪習のことを指摘したい。農家が使う技術にコストをかけ過ぎていることだ。すなわち技術購入システム、過度の分業化が農家の所得率を低いままにしている要因ではないか。

 

 例えを一つ

 無農薬の畑作を行っていると、秋作のキャベツやニンジンなどの葉に白い粉を吹いて干からびた虫の死骸をよく目にする。殺菌剤や殺虫剤を使わないと、数種の昆虫寄生菌が畑の表土に増殖し、ハスモンヨトウやキクキンウワバなどに寄生する。白い粉は菌の胞子で、いわば有機栽培特有の害虫の自然死である。代表的な「ボーベリア菌 (蚕の白きょう病菌)」は生物農薬として市販されている。

 私は2006年から15年間、JICAの委託を受けて中南米の農業技術者、中堅指導者たちに有機農業技術の指導をしてきた。ある年、キューバの研修者がこんなことを言っていた。「畑の虫の死骸とその数十倍の生きている虫を集めて容器の中で飼い、すべてに感染させて菌の増殖を行います。農家は集団でこの作業を行い、増殖した菌を分け合って次のシーズンで自製の殺虫剤として使っています」

 他の国の研修者でうなずく者、その方法を具体的に教えてくれという者など、こうした技術談義は研修中に大いに盛り上がった。貧しい零細農家を指導する彼らが「技術の自給」について、とても熱心だったのだ。適正技術を農家自身が創意工夫して身に付ける態度と対応力を「我々も学び直すべきではないか」、長年の課題を具体的に確認できたできごとだった。

 有機農業は、化学肥料を買わずに堆肥やボカシ肥料を自家製造して使う。農薬を買わずにさまざまな病害虫回避の技術を自ら編み出して使う。世界中どこでも、技術の自給に長けた農法の世界だ。スマート農業とは対極にある。