有機農業とその技術(5) 技術展開(接ぎ木、その一)

 私は若いころ、果菜類の接ぎ木を研究課題にしていた。師匠の丸川慎三先生がウリ類の接ぎ木に使う台木カボチャの研究者だった。キュウリやトマトなど施設栽培で生じる土壌伝染性病害(連作障害)の対策として、当時は殺菌殺虫剤(毒ガス)の土壌処理か抵抗性台木を使った接ぎ木か、どちらかが選ばれた。私は当時から農薬嫌いだったので、接ぎ木を学べることを喜んだ。

 ウリ類とナス類のほとんどで接ぎ木を試した。ピーマンやインゲンマメの接ぎ木、ナス台木に低温伸長性に優るトマトを使ってみたり、その逆も試した。トマトの台木にジャガイモを使った「接ぎ木ポマト」も成功させたが、当然ながら実用性に疑問符が付いた。ナスの台木にクコ (枸杞) を使って接ぎ木を試したら、枯れはしなかったが小さな実を1個ぶら下げたまま5~6カ月間ほとんど生長しなかった。“接ぎ木親和性” がその程度だった、ということだ。

 研究テーマを「接ぎ木方法」にして、国内の接ぎ木方法 (接着方法) を収集したところ、4種の基本操作とそのアレンジを含めて38種の方法が各地で行われていた。基本操作4種のうち、当時最新の方法に名前がまだなかったので丸川先生と相談して「合わせ接ぎ」と命名し、専用の接ぎ木クリップを開発したりもした。40年以上も前のこと、面白かった。

 接ぎ木技術は世界各国で活用されている。果樹の土壌病害対策で使われていた手法をもとにして、果菜類に応用展開されてきた。日本で果菜類の接ぎ木は、昭和10年奈良県でスイカに使われたのが最初である。今ではキュウリ、スイカ、メロン、トマト、ナスで広く利用されている。接着方法としては「合わせ接ぎ」が最も簡易なので接ぎ木ロボットが開発されたし、トマトなどでは接着部位の固定具がかつてのクリップからチューブやセラミック針に変わった。技術面で変遷はあるが接ぎ木の需要は今も大きい。

 大きな変化は、農家が自分で接ぎ木苗を作らなくなったことだ。栽培ハウス内に土壌病原菌や有害センチュウがいて接ぎ木苗が必要な場合は、ほとんど業者から購入するようになった。穂木品種と発生病害に対応する台木品種を指定して接ぎ木苗を発注するのだ。便利といえば便利ではあるのだが・・・、さてそれでいいのだろうか、と思うのだ。各社のタネのカタログに台木品種の紹介が載らなくなった。農家が台木種子を買わなくなったからだろう。

 今後、有機農業の対象が広がると、栽培時期の拡大も期待されるだろう。晩秋から冬季、早春のキュウリやトマト、ナスなどの施設内有機栽培が求められれば「連作障害」の危険性も増す。有機農業技術のトピックスの一つとして、接ぎ木の使われ方に注目しなければならない。

接ぎ木操作の基本型。左から 呼び接ぎ、割り接ぎ、挿し接ぎ、合わせ接ぎ