有機農業とその技術(4) 技術の自給(その三、採種)

 近年、野菜などの種子を買うと、袋裏面の種子 “生産地” 欄にアメリカ、オーストラリア、インド、韓国などと表示されている。私が今年買った種子のうちキャベツだけ香川県というのがあって少しホッとしたが、市販される野菜種子のほとんどが外国産になってしまった。

種子袋の裏書き。外国の農家に採種を委ねるようになってから均質性にやや問題を感ずるようになった。異質な個体が混じることがある。

 以前は、日本各地にタネ採り農家 (採種農家) があった。タキイやサカタなど種苗会社と契約し、会社から渡される父方、母方の両系統種子を蒔いて畑で交配させ、実った種子を収穫して会社に買い取ってもらう採種専業農家である。さまざまな「作物種子を採る技術」が農民の専門技術の一つとして受け継がれてきたのだが、昨今、その技術が農民の手から奪われつつある。国内の採種農家が激減したのだ。

 畑作物、野菜などの伝統的な品種、地方特産品種などを守り残そうと、自家採種運動がある。有機農業だけに限ったムーブメントではないが、参画者には有機農家や関係者が多い。「有機栽培に向く品種、固定種」などという生産者側の認識や「地方在来の野菜品種を残してほしい、食べたい」など消費者・市民側の要望も受けて、熱心に自家採種に取り組む有機農家が各地にいる。

 日本有機農業研究会では、長崎県の岩崎政利さんや千葉県の林重孝さんらが自家農園でそれぞれ数十種類の野菜種子を採種して栽培活用しながら、広く自家採種の意義と方法を伝える活動に取り組んでいる。研究会では多くの農家が採種した種子の収集と頒布システムも整え、さらに多くの有機農家に活用とタネの採り返しを呼びかけている。

 秀明自然農法ネットワークは「タネ屋から購入しない。使う種子は秀明内で採種」を原則にして自家採種のスキルアップに取り組んでいる。イモ類にウイルス罹病が定着したり結球しないキャベツになったりと失敗もあるが、「畑に馴染み低投入栽培に適した種子を選抜育成」など独自の成果もあるようだ。

 こうした自家採種運動は、さまざまな伝統品種の保存と活用、地方食文化とのかかわりなど諸々の意義とともに、採種技術を農民の手に残し継承することに大きな意味がある。種子は「育種と採種」技術の結晶である。種子を買うことは技術の購入なのだ。対して、農家採種は技術の自給に他ならない。

 私はといえば、育種も採種もほとんど素人。毎年いくつかの野菜品種で自家採種し利用もしているが、その種子を人に勧めるほどの自信はない。栽培野菜の種子の大半は購入している。種苗会社が育成した野菜種子は能力も高く、有機栽培でも利用価値は高いと思っている。官民が関わった永年の種苗育成研究の成果を利用しない手はないと思っているが、せめて採種技術を農民の手に取り戻す必要があるという思いは「誰かに訴えたい」。