自然共生の農と食を未来人の手に(2) 新・農家100万戸育成計画(その七、新規就農者の現状は)

 実践力ある指導者の育成を次話で、と前話で締めくくったが、さらに次話に送る。その前に新規就農者数の現状を確認しておこう。

 農水省の数字に依れば、2022年の「新規自営農業就農者」は31,400人である。しかし20年後も確実に営農を続けてくれると期待できる49歳以下は、そのうち6,500人 (21%) にすぎない。その8年前の13,200人から半減している。2015年から2020年の5年間で基幹的農業従事者が40万人減った。年平均で8万人も離農しているのに、6,500人の新規就農では食料自給を担保することなどできやしない。

 

 新規就農者の約8割を占める50代以上の人々も、相当の生産力を維持する役割を担ってくれている。57歳で就農した私自身もその一人だった。日本の農業生産の大部分を、こうした老壮の人々に頼っているのが現状だ。50代以上の就農者の多くは農家の後継者である。高齢になってリタイヤする親に代わって営農を引き継ぐのだが、残念ながらその次の代はほとんど不在である。

 6万戸の新規就農者育成計画は、現状の数倍から10倍の農家育成をめざすものである。それでも離農者8万戸をカバーできない。新規農家6万戸には現状以上の生産力を期待しなくてはならない。技術力、経営力の飛躍を期待するとともに、公的な支援の強化が絶対条件である。

 年6万戸の新規農家育成に1兆円を投じようなどという提言は、私案にすぎない。国政の大転換を提案するなど「ばかげた試みか」と、自分の理性に揺らぎを覚えることもあるが、いやこの主張は隠しておけない。表すべきだ、と励ます自分もいる。未来人の命とくらしに関わる問題を放置できない。

 数年前にあったシンポジュウムで、「みどり戦略」の概要報告をした農水省農業環境対策課の課長補佐のあと、次に登壇した私が批判的な意見を述べたことがある。30年近く有機農業と新規就農者育成に携わった経験にもとづいて、農家育成に大きな投資と政策の見直しが必要だと課長補佐に向けて主張した。

 昨年末には、私を訪ねて「有機農家が作ったオーガニックの店」にやって来た関東農政局生産技術部長に、この機会にとやや羽目を外して有機農家育成と指導者育成の必要性について声を大にして弁じた。部下をたくさん引き連れてきた部長さんは、じっと耳を傾けてくれた。

 課長補佐や生産技術部長に訴えたところで国の政策がそうそう簡単に変わるとは思えないが、実情を生身で知っている者として発言しないことは無責任だと思っている。1兆円投資を訴える根拠はある。