自然共生の農と食を未来人の手に(4) NPO農業のすすめ

 有機農家を育てる研修農場をNPO法人として運営した経験は貴重だった。12年間で20余組の新農家を送り出すことができたのは、多くの人の参加と支援があったからだ。個人活動ではとても無理だった。新農家育成もさることながら、その過程で数千名に及ぶ人々がこのNPO農場を利用してくれたのだが、これが実は最大の成果だったと思う。

開かれた農園、公共の福祉に貢献する農園、参加型農園に期待する市民は多い

 農産物生産を担うのは、今後も個人農家や法人経営が主力であり続けるだろう。だが、そうじゃない農の形があってもいいんじゃないか。現に福祉施設が運営する農場、幼稚園や保育園付属の農園、市民参加の体験農園、農家の水田や果樹園で行う「オーナー制」など、すでに多彩な取り組みがある。

 広範な市民が参加しやすい農のあり方として、NPO農園を提案したい。

 100万戸の新農家育成をなんとしても実現させないといけないが、そうした新規就農者にもいずれ継承者が必要になる。結局、家族以外に継承できる営農のモデルが必要になる。NPO農園を提案するのは、スタッフ間の継承で農業経営の連続性を担保できるのではないかと考えるからだ。

 NPO農園の第一のねらいは「スタッフの所得確保」だ。第二が農の「持続性」。そして第三の意味づけが「公共性」である。農はもともと儲けるだけの仕事ではない。地域社会の維持、防災、道路や河川などのインフラ管理、自然環境の手入れなど、農家は手間賃を期待できない公共的な仕事のなんと多くを担ってきたことか。こうした農本来の機能を思えば、NPO運営はとても理にかなっていると思うのだが、いかがだろう。

 中山間地域の離農が著しい。過疎化に拍車がかかり、いずれ自治体の消滅につながるだろうと悲観されている。農林水産業の衰退がその根源である。そうした過疎地の農を維持する方策として、NPO運営が役立たないだろうか。高齢化した地域住民が、短時間、軽労働でも個別の条件に合わせて参画できる集団農の営みとして構想してみてはどうだろう。

 周辺小都市の市民などを巻き込んで参加と支援の輪を広げ、子どもぐるみで体験の場に、山村や海浜の里を守り、自然環境の手入れにも関わる。未来人の食と環境を保障する大事な手立ての一つとして、こうした市民参加型の農の開発をみなで考えてみたいものだ。

 日本中にNPO農業を普及させてもいいのではないか、ずっと前からそんな風に思っていたのだ。