徒然に(8) 新聞を読む

 新聞は紙であり印刷された活字であるが、単に日々の最新情報を提供してくれるだけの「物」ではない。国内のみならず世界各地の人々のくらしや生き様を知り、そうした人々の声が聴ける「開かれた窓」である。いい話もあればつらい記事もある。毎朝、人々の生き様や声に接して新たな学びを得ているし、涙することもしばしばだ。

 

 今日の朝日「声Voice」から一つ原文のまま転載してみよう。

 教え子の「鬼さん外は寒いから」 投稿者は神奈川県74歳の人 

 ▶20年ほど前、養護学校の高等部に勤務していた時のことです。受け持ちのクラスに、染色体に関係するルビンシュタイン・テイビ症候群の男子生徒がいました。▶性格は明るく優しくて、身のこなしはぎこちないながらも、サッカーボールを追い回したり、イチローのまねをしたりして楽しむことが好きでした。彼のそばにいるだけで誰もが愉快な気分になったものです。▶2月4日の朝、その生徒の家からの連絡帳のほんの数行に、私は思わず涙してしまいました。「昨晩はわが家恒例の豆まきをしました。息子は大きな声で『鬼は外、福は内』と繰り返しながら家中まいて回りましたが、最後に小さな声でそっとささやきました。『でも鬼さん、外は寒いから入ってきていいよ』と」▶私は今でも思います。人類がみな彼のようだったら、この世界は争いもなく、みんなが明るく楽しく暮らせる世であり続けただろうにと。

 こいう声を目にするたびに胸がいっぱいになり涙を誘われる老境を、私は素直に受け入れることにした。心が洗われることに、日々喜びを感じている。

 

 若い人に紙の新聞を読むことを勧めたい。

 だがこの経験と喜びを、どのように伝えたらいいのかを日々悩む毎日でもある。