自然共生の農と食を未来人の手に(3) 有機農家30万戸育成計画(その二、民間の農学校に有機指導者養成所を)

 道府県農業大学校と教育目標を共有する民間の農学校が全国に5校ある。東京にあるのはAFJ日本農業経営大学校であるが、実習教育を行っていない。もう一つ岡山県にあるのは中国四国酪農大学校である。

 他の3校は長野県と茨城県にある。それぞれ広大な実習農場を持っており、長い歴史と固有の教育理念を持つ有為な農学校であったが、3校とも廃校寸前の厳しい現実にさらされている。道府県農業大学校と学生募集で競合の末、入学者が激減して経営がままならなくなったのだ。そもそも道府県立校と学生負担金に倍以上の開きがあり、民間校は断然不利だった。

 かつては農業者養成教育の要と位置付けられ、農水省を通じて適正な補助金があって教員陣容もなんとか保てていた。ところが10数年前、3校とも補助金支給を完全に断たれ、必要な教育資源を維持できなくなっている。

 この貴重な教育の場を蘇らせ、再活用してはどうか。

 3校に「有機農業スペシャリスト養成所」を設置するのだ。1年制の実践的な宿泊研修を行う施設にする。全都道府県から所属の農業改良普及指導員1~2名を選抜してこの養成所に派遣するのだ。3校には学生寮があり、広大な実習農場があるからすぐに機能する。西日本に養成所が必要な場合は、島根県農林大学校に協力を仰ぐ手もある。

 ポイントは、その教育指導に誰があたるかだ。有機農業指導できるスペシャリストが現状はほとんどいないので、当面の5~6年は優秀な有機農家に委託して実技指導してもらうしかない。いずれ有機指導者が育ってくれば、専任の指導教員を置けるようになるだろう。講義は有機農業学会の協力を仰ぎ、全国から大学教員や研究者を講師に迎えれば整うだろう。

 研修者は普及指導員に限定する必要はない。全国の農協も近々に有機スペシャリストが必要になる。農協からの派遣も受け入れる。農業法人等の民間団体からの派遣も想定できる。

 設置資金は、前述の3,400億円のうちから拠出する。3農学校の教育環境を整備し直すこと、当面の指導を委託する有機農家の人件費や講師料等を準備すること、都道府県や農協への研修者派遣費用補助にあてるなどだ。数十億円規模でできるのではないか。有機農業スペシャリスト養成は、みどり戦略にある「2050年までに25%、100万ha化」のためには必須の事業である。

 この養成所は、有機農業の理念と技術をしっかりと体得することを教育目標にする。安易に「もうかる農業」を旗印にするような指導者養成ではなく、「地域と地球の環境を守り、豊かな食と健康をあまねく国民に保障する」農の根本理念を学ぶ場所にしなくてはならない。とかく忘れがちな教育の理想を見失わないことが肝要である。

 私はかつて、鯉淵学園農業栄養専門学校の教員だった。民間農学校の柔軟な教育実践力、「行学一致」とか「師弟同行」などの教育の考え方が、指導的農家の元で行う研修にとても近似の教育力を持っていると知っている。活用しない手はない。

日本農業実践学園 https://nnjg.ac.jp

▶鯉淵学園農業栄養専門学校 http://www.koibuchi.ac.jp/

八ヶ岳中央農業実践大学校 http://www.yatsunou.jp/