自然共生の農と食を未来人の手に(3) 有機農家30万戸育成計画(その一、全国の農学校に有機コースを)

 新農家100万戸育成 (120万戸育成に取り組んで定着100万戸)計画 のうち、30万戸は有機農家を想定する。120万戸育成活動の4分の1 (25%) にあたる。指導農家1万組合 (4~5万戸) を有機農家育成にあてたいところだが、現状では有機農家はそんなに存在しない。経験豊かな有機農家は数千戸くらいだろう。有機農家だけで新有機農家育成ができる状況にはない。

 全国の大学農学部、42の道府県農業大学校有機農業を学べる課程があるのは、2023年現在で島根県と埼玉県の2農大校のみ。近々、群馬県有機課程を開講すると耳にしているが、それでもたった3校だ。通年で関係科目を学び、実習圃場で実践的に有機農業を学べる全国的な「有機農業教育ネットワーク」を、とにかく急いで整備する必要がある。有機農家でしか実践的に学べない状況を、早く打開しなくてはならない。

 全農業大学校に、実践的に学べる有機農業コースを設置することが喫緊の課題である。1~2年制の実践的な教育課程であってほしい。例えば埼玉県の有機専攻は、1年制で20~60代の多様な入学動機を持つ学生が在籍し、多彩な講師陣から講義を受けながら70アールの専用実習ほ場で実技を習得する。

 2015年の開講当初から指導力のある若手有機農家を招いて実習指導の一部を委託した。専任講師は、この有機農家と実習農場の管理作業に同行して有機栽培技術を体得し、同時に指導力を身に付けてきた。こういう場があってこそ、有機農業指導のスペシャリストが育つのだ。有機農業の一般教育と指導者養成のモデルになると思う。

 島根県は2年制の有機コースを2012年に開講したが、入学者は20歳前後の若い学生が中心である。卒業生はすぐに独立就農が難しいので、いったんは有機農業法人などに就職する例が多い。このコースとは別に週末などに限定する社会人向け有機就農者養成講座もある。これも一つのモデルになる。

 他の農大校で週末などに社会人向け有機講座を持つところはあるが、正規の有機学科を持たないので専任講師がいないし実習ほ場がない。これではいつまでたっても指導者が育たない。実践力ある指導者が育たなければ、週末の有機講座も成果は上がらず、有機農家育成はままならないだろう。

 農水省は、全国の農業大学校に「有機コース設置」を促すべきだ。コース設置のための資金投入が必要なのは言うまでもない。大学農学部は直の就農者養成が難しいだろうから、農業大学校有機農業教育を支える科学的、および人的協力に尽力してほしい。

※ 全国の農業大学校 https://www.noudaikyo.jp/link.html