有機農家を育てる(2) 就農志向者のニーズ

 1994年、有機農法への転換を志した当時から私には確信のようなものがあった。未来の農の世界ではおそらく有機農業が主課題になり、有機農家が主役になるだろうと。

 

 1971年に日本有機農業研究会が発足し、その後ピーク時には全国で5,000名もの有機農民が研究会に結集したという。農家後継者が慣行農法から転換した事例も多かったが、非農家生まれでゼロから学んで参入した有機農民がたくさんいて、時代としては画期的だった。慣行農法からの転換には、農村の実情からすると多分に抵抗感が伴うが、新規参入者には農村特有のしがらみもなければ、農法についての固定観念もなく、有機農業に取り組みやすかったと思う。

 とはいえ社会の認知度も低く、農家になるという「起業」には資金や住居の確保、技術習得などのハードルは相当に高かったに違いない。だれでも気軽に農家になれるような状況ではなかったから、志向者のごくごく一部しか有機農家になれなかった。行政はほとんど全く関知せず助成金の類はなかったし、有機農業を学べる場所も、地方の特異的な農業高校など1~2の事例しかなかった。

 

 1996年、農水省が全国8か所の農学校・園芸学校に委託して「就農準備校」を開始した。地方移住のニーズが相当に高まったことを受けての政策だった。勤労者を対象に「働きながら学べる就農準備講習」である。鯉淵学園でも受託し、私が担当者になった。受講者の希望を集めてみると、多くの人が有機農業的な技術を知りたがった。有機農業の存在を知らない人も多かったが、「農薬は使いたくない、有機肥料の使い方を知りたい」人が多数派だった。

 有機に転換したばかりだった私には、有機農業技術の研究とともに必然的に有機農家の育成が大きなテーマになった。自身の研鑽と同時進行だった。

 

 30年近く前のことだが、有機農業に強い関心を抱く農村志向の市民の意識と、有機農業の存在などほとんど知らない農村現場の人々(農家、農協、農業行政)の意識とで、すでに相当の乖離があったのだ。