徒然に(6) 糞考(その三、糞肥つづき)

 前話に載せきれなかった『農民哀史』の一節をもう一つ二つ。

 「父と小作料問題を話す。一反八畝三歩で収穫が七俵(約420㎏)。そのうち小作料が四俵と一斗一升(約260㎏、収穫の60%超)とは馬鹿な話だ」

 「… 尋常四年の妹は、二歳になった実(みのる)を背負って、渋々学校へ出かけて行く。――先生が赤っ子をつれて来るとうるさいからって ――学校は赤っ子を負って来る所じゃないって? ――おらあ本を読みてえが、実が騒ぐんで先生が外へ出ろと言うから…… 私は、妹の涙ぐんだ声をけさも耳にした。そして何かを言おうと、口籠ったが、そのままやめた。毎朝、母に不平を訴えるようにつぶやきながら、か細い身体に赤っ子を背負って、学校へ出て行く妹の姿を見る時、私は言い知れぬ悲憤にイラ立つ」…………

 

 さて人糞尿のつづき

 近年になって利用が始まったのは、かつての生々しい “下肥” ではない。屎尿処理場または下水処理場の活性汚泥のことだが、要注意の代物だ。人間は雑食を極めた動物である。次々と新しい “食材” が開発され人の口に入っている。現代人の排泄物は、おそらく全動物中で最も汚染度が高いであろう。

 何が汚染物質なのか。農産物に残留している化学合成農薬、化学合成の食品添加物、そして重金属が心配される。無数の難分解性化学物質が開発され、人の口からだけでなく、鼻から、皮膚からも体内に入ってくる。例えば「日本では赤ちゃんの尿からネオニコチノイド(殺虫剤成分)が100%検出されている」(星信彦神戸大学大学院教授)、「(除草剤成分グリホサートが)小学生からも検出された」(八田純人農民連食品分析センター所長)という。

 処理場の汚泥を堆肥化するにあたっては、重金属含有量は規制基準内であるとされているのだろうが、農地にくり返し投入すれば重金属量は増加蓄積する。難分解性の化学物質も同様だ。資源利用の観点からは残念に思うが、処理場汚泥の堆肥化、農業利用は認めるべきでない。

 別の方法がある。例えば人糞尿中のリンは貴重な資源であり、処理場の汚水から電気的にリンを回収する技術がある。回収の高コストが課題であるが、こうした技術の利用はあってよいと思う。

 学校給食の有機農産物利用が全国各地で始まっている。有機給食の勉強会の会場で、化学物質過敏症の子を持つ女性が「家畜糞の農業利用は大丈夫なんでしょうか」と質問していた。アレルゲンを心配する母親の気持ちは痛いほど分かる。人間の排泄物は家畜糞尿どころでない高リスク物質である。関係者はよくよく考える必要がある。