2023-01-01から1年間の記事一覧

徒然に(6) 糞考(その三、糞肥つづき)

前話に載せきれなかった『農民哀史』の一節をもう一つ二つ。 「父と小作料問題を話す。一反八畝三歩で収穫が七俵(約420㎏)。そのうち小作料が四俵と一斗一升(約260㎏、収穫の60%超)とは馬鹿な話だ」 「… 尋常四年の妹は、二歳になった実(みのる)を背負って…

徒然に(6) 糞考(その二、糞肥)

洋の東西を問わず、家畜糞が作物の栄養源になることは知られていた。ただし、小屋飼いなら糞尿を確保できるが、放し飼いの場合は容易ではない。放牧が主体の欧州では、放牧中の畜糞で肥やした後に作物栽培する三圃式の方法があった。 家畜糞が肥料になるなら…

徒然に(6) 糞考(その一、糞食)

20年ほど前に買っておきながら読まずにいた本が、“積読(つんどく)” の山の下から出てきた。読み始めたらなんともおもしろい。中公新書『ふしぎの博物誌』2003。編著者河合雅雄さんの冒頭の1編「究極のリサイクル---糞食」にまず食いついてしまった。 「糞は…

農と暮らしの技(3) 家畜のいるくらし(その一)

1960年代以降、日本の農家のくらしはずいぶん大きく変わった。その一つが家畜のことである。かつての日本の農村では、なにがしかの家畜を飼う家が多かった。馬、牛、山羊、豚、鶏などだ。それぞれの飼育数は、家畜種、農家の経済や家族数、耕作する田畑の規…

有機農業とその技術(3) 土づくり(その七、ボカシ肥料Ⅱ)

ボカシ肥料は、身近に手に入る次のような材料を混ぜ合わせて作る。 ・粒状または粉状の廃棄有機物、農業副産物、食品製造残さ、など 米ヌカ、小麦ヌカ(ふすま)、油カス、魚カス、オカラ乾物、クズ大豆、クズ麦、生ゴミ発酵処理物、発酵鶏糞、果汁搾りカス、…

有機農業とその技術(3) 土づくり(その七、ボカシ肥料Ⅰ)

米ヌカや油カス、魚粉などは、そのまま肥料として農地に投入することもできるが、窒素成分が急激に溶けだして栽培初期に「効き過ぎ」たり「生育障害」を発生させてしまうことがある。そこで昔の人は、そうした有機物に土を混ぜて発酵させたものを使い、肥効…

環境問題と農業(1) 農業は環境に何をしたのか(その十)

現代人が未来人のために残すべきものに、地下資源のことがある。現代の繁栄は鉱物資源の先食いに依るものであり、未来人からはその罪を糾弾されるにちがいない。農業について言えば、肥料資源のリン鉱石やカリウム原石などについて、いずれきっと責任を問わ…

有機農業とその技術(3) 土づくり(その六、ミミズ)

地球の表面に薄く存在する土壌は、実はとても繊細な構造物だといわれる。恒常的に動植物と微生物のはたらきによって生成と損耗を繰り返している。その生成に最も大きなはたらきをしているのがミミズである。ミミズがいなくなると、土は土としての性質を失っ…

有機農業とその技術(3) 土づくり(その五、腐葉土と床土)

「農と暮らしの技(2)肥土(苗床の土)」で、育苗用土のことに触れた。ここではもっと掘り下げて書いてみたい。 育苗用土にもっとも一般的に使われたのが腐葉土である。材料は落葉広葉樹の落ち葉のほかに、西南日本では常緑広葉樹の落ち葉が使えるし、海辺…

農と暮らしの技(2) 肥土(苗床の土)

「土を肥やす」と、昔の人は言った。“肥えた土が作物を育てる” という考え方がかつては一般的であったことの証明だ。土づくりのことである。 「苗半作」という格言があるように、育苗の出来が重要視された。だから、苗床の土(育苗用土、床土)をしっかり作っ…

有機農家を育てる(7) 農業予算の4倍増、5倍増が必要だ

7月7日に「この国のかたち(1)もうかる農業?」で、1980年(昭和55年)と2022年を比べて国の農業予算額が大きく目減りしたことを述べた。額が減っただけでなく、国の予算総額に占める農業予算額の割合が気になったので、あらためて調べてみた。 1980年の国家…

有機農業とその技術(3) 土づくり(その四、植物質堆肥)

日本土壌協会という団体がある。土壌の健全化や環境保全型農業の推進などを目的にしている専門家集団で、土壌医の認定も活動の一つだ。この土壌協会が堆肥の優劣を確認する方法として「堆肥に直接コマツナの種を蒔いてみよう」と言っている。順調に発芽する…

環境問題と農業(1) 農業は環境に何をしたのか(その九)

もう一つ、農業関係者がすぐにでも対策しなければならない課題がある。貴重な有機物資源をうまく活用できないで無為に廃棄し、しかもその廃棄過程で大量のCO2を排出してしまっていることだ。 30年近い有機農業のかかわりで、とても有効な有機肥料素材が身近…

有機農業とその技術(3) 土づくり(その三、家畜糞堆肥)

作物栽培の現場の土づくりは、どうしたらいいのだろう。 田畑の土づくりは堆肥の施用が基本になるのだが、その使い方にはいくつか注意すべき点がある。近年の堆肥の特徴と、いくつかの問題点を確認してみよう。 もっとも多く使われているのは牛糞堆肥(堆厩肥…

有機農業とその技術(3) 土づくり(その二)

自然界で土を作っているのは誰なのか。 どのようにして土ができてくるか、その生成過程を知るには、腐葉土や堆肥を作る経験が役に立つ。腐葉土のでき方を再現してみよう。 落葉樹の落ち葉を集める過程で、その年の落ち葉のほかに地表の「腐葉」も少量が混ざ…

この国のかたち(6) 未来人のためにすべきこと

朝日新聞に「序破急」というコラムがある。 ちなみに、序破急(じょはきゅう)とは何だろうと調べてみた。元は雅楽から生まれ、古い芸道の世界に及んだ言葉で、序(ゆっくりで自由なスタート)、破(テンポアップする中盤)、急(クライマックス、そして終わり…

有機農業とその技術(3) 土づくり(その一)

土とは何か、土はそもそもどのようにしてできたものか、その成り立ちを知ることから始めなくてはならない。 生物のいる星、地球には土があるが、生物のいない月には土がない。アポロ11号のアームストロング船長が月に最初の第1歩を下ろした時、舞い上がった…

有機農業とその技術(2) 有機農法の要点

求めるべき今後の農のあり方、より適切な有機農業の姿を明らかにするために、まずは有機農業の目的にかなう技術、農法の要点を整理してみたい。有機農業の技術の基本は次の5項目に集約できる。この5項目と先に示した農法5類型の特徴を交差させて一つひとつ確…

有機農業とその技術(1) はじめに 

これまでの農業のあり方は、地球環境を悪化の方向に促す「負の役割」を担ってしまった。他産業と連なって地球温暖化・気候危機に加担し、生き物の大量絶滅の主犯となり、農地の劣化と水圏汚染を進めて未来の食料生産を危機に陥れた。早急に農法を改めないと…

小さな農と未来のことと …… 便利とは何か

これが50話目になる。 6月21日に書き始めて、これまで3カ月余。だいたい2日に1話のペースで書き進めてきたが、この後もまだまだ書きたいことはたくさんある。自然環境と共生・調和できる有機農業の技術のこと、衰退する日本農業と後継者難への対策のこと、5…

徒然に(5) 賢人に学ぶ(三)

もう一つのディストピアSFに、ジョージ・オーウエルの『1984年』(1949刊)がある。17歳の時に読んで、こんな恐ろしい世界はごめんだと強く思った。 高校2年、夏休みの英語の宿題で、オーウエルの『Animal Farm(動物農場)』(1945刊) 数十ページ分を「和訳せよ…

徒然に(5) 賢人に学ぶ(二)

切り口は異なるが、賢人に学ぶもう一つの方法。過去に著わされた「未来を描いたSF小説や漫画」などから、人類の叡智と愚かさの両面を学ぶ方法である。 例えば、アイザック・アシモフの『鋼鉄都市』(1954刊)。ロボット工学三原則に縛られたロボットに殺人が犯…

徒然に(5) 賢人に学ぶ(一)

壮年になってから、自分の発言、行動に正当性があるか、何か欠陥があるかもしれないと徐々に不安が募るようになった。「これが正義だ」と自分の主張を一方的に押し付ける増上慢に陥ってはいないかと、そいう煩悶だった。 はるか昔に父親に言われた言葉が蘇っ…

徒然に(4) 紙の本がいい(その二)

いまや小説も漫画も、スマホやパソコン画面で読めるそうだが、なんとも気に入らない。紙の本がいいに決まっている。俳優たちがテレビで「セリフは紙の台本でないと覚えられない」と口々に言っていた。そうだろうと思う。 まちの本屋が消えつつあるという。人…

徒然に(4) 紙の本がいい(その一)

もうだいぶ前からだが、妻からくり返し小言を言われている。寝室に散らかっている無数の本を “片付けてくれ”というのである。今秋こそは、と思う。 私の癖だが、面白いと思った本は何度も読み返してしまうので、カバーは外れ、表紙は反り返ってくたくたにな…

環境問題と農業(1) 農業は環境に何をしたのか(その八)

除草剤の、環境生物への影響がとても気にかかる。 今、畑地や住宅周辺で使う除草剤が、市民が日用品を買う町なかのD.I.Y店やドラッグストアで難なく買える。テレビでも「根こそぎ枯れる」などと消費を煽り、ネットで誰でもいつでも買えるこの風潮がとても気…

環境問題と農業(3) 環境再生型有機農業(その三)

不耕起栽培は、2003年から露地ナスでも試みている。 ボカシ施肥し、ロータリー耕耘後に畝立て黒マルチした一般的な有機栽培(対照区)との比較で、鍬溝にボカシ施肥して埋め戻し、藁マルチした不耕起栽培(部分耕耘、あるいは半不耕起)を、5年間連作で試験した…

環境問題と農業(3) 環境再生型有機農業(その二)

家の前の畑2反3畝(23アール)を3年前から借地して「自給有機農園+ちょっと販売」を行っている。5アールほどを通路、資材置き場、堆肥場、育苗ハウスなどに使い、13アールくらいを野菜畑、5アールを無農薬果樹園にしている。 かつて農業専門学校の教員だった…

環境問題と農業(3) 環境再生型有機農業(その一)

農業は環境に何をしたのか(その七)で、世界の土壌劣化が食料危機につながるだろうことを書いた。国連「国際土壌の10年」プロジェクトで、土壌劣化を止めて農地を蘇らせる運動の今年は9年目であるが、わが国の対応が鈍いことも指摘した。 だが、希望はある…

この国のかたち(5) 政府が公然と差別する、そんな国の私たち

AERAdot.に、政治経済評論家・元経産省官僚 古賀茂明さんの、辺野古新基地建設に関わる最高裁判決について「国が司法と組んで『黙らせる』狡猾手口」が載った。 防衛省の辺野古新基地設計変更申請を沖縄県が不承認としたことに対して、国土交通省が県に承認…